Wonderful
Chance

mission

 
ペア 2022/2/13 16:36 No.2
(2月。この時期になると教室内はある話題で持ち切りになる。バレンタイン・デー。今までも友人や部活仲間とチョコレートを交換するその日を楽しみにしていたけれど、好きな人にチョコレートを渡す日だと強く意識したのは生まれて初めてのことだった。ボーダー隊員の彼が普段から忙しい身であるのは知っているし、当日に会える確証だってない。それでも、生徒会主催の企画がボーダー隊員を招くものであると知れば『14日ってもしかして』『会えたりする?』と送ったメッセージには隠しきれない期待が滲んでいただろう。──異性との出会いがない女子校で、ましてや三門市のヒーローのような存在である彼らが訪問するとなればその熱は凄まじいもので、体育館のあちこちにボーダー隊員を囲んだ人だかりができている。その光景にすっかり気圧され友人たちにも置いてきぼりを食らってしまい、小ぶりな紙袋を片手に周囲をぐるりと見回した視線はある一角へ縫い留められた。)やっぱりかっこいいもんなあ…。(ぽつりと零した呟きも、この賑わいの中では誰の耳に届くまでもなくかき消されてしまうだろう。明るく気さくな彼がチョコレートを多くもらうことは覚悟していたけれど、己よりも背が小さくて可愛らしい女の子たちに囲まれているのを見るとついつい眉が頼りなく下がってしまった。傍から見れば、しょんぼりと浮かない顔をした女が輪から離れたところにぽつんと取り残されているような状況で。彼の方にばかり気を取られていたから、背後から掛かった声には不意を突かれたようにびくりと思いきり肩を跳ねさせた。)うぇっ!?あ、えっと…い、一応渡したい人はいるんです、けど…。(ぎぎぎ、と油を差していないロボットのようなぎこちない動きで振り向いて、ふよりと所在なさげに泳いだ視線はそのまま床へと着地する。異性を前にするといつもこの調子だ。一対一の状況が居た堪れず「ち、ちょっとがんばってきます…!」と親切に声を掛けてくれた隊員に軽く何度も頭を下げては、前髪を整えながら意を決して彼がいる方へ歩み寄ろう。こういうときばかりは自分の背が高くてよかったと思える。人だかりの中、もしも彼と視線を交えることが叶ったなら、嬉しそうに目を細めるかんばせがあっただろう。)
天沢純 2022/2/14 09:41 No.14
(イベントの概要を聞き、三輪隊からも一人参加するようにと言われるなり「おまえが行け」と隊長命令が下って、そりゃそうなるだろうなと快諾した。暫くまみえる時間の取れていない彼女に会う機会となるなら、元より願ってもない話である。ただの文字の羅列の癖にそわついた彼女の姿が眼裏に浮かぶよなメッセージには、『そりゃ、会いに来てくれんなら?』と既に返していたし。当日共に参加するメンバーに約束を取り付けて時間を取れるよう根回しもちゃっかり済んでいる。ある意味特権の悪用とも言えるかもしれないが、最低限仕事はするつもり。チョコレートという形ではあれ、こういうふうに応援が目に見えて手元に届くというのは、市民の安全第一に活動する活力になり得るのだろう。自分のように、強い奴と戦えればそれでいいという隊員の方が例外の筈だ。礼を伝いながら受け取りつつ、「奈良坂宛て多くね?」とたまに女子生徒を茶化して談笑しつつ。たまたま持ち上げた視界の端に彼女の姿と隊員が映り、やり取りが問題なさそうなところまでを見守って──視線が交わったなら、応えるようにニッと口許に笑みを作る。)……じゃ、あとよろしく。埋め合わせはするからな。(ポンと後輩の肩を叩き、輪を抜けて彼女のもとへ──と思いきや、体育館の外に出て行く。しかしすぐにスマホを取り出してはメッセージを送ろう。『ステージの階段のとこ。』大勢の注目を集めているところに駆けては、一応関係性を伏せている以上差し障りがあるだろう。一度生徒たちの視線を切って、別の扉から体育館に戻ってきては舞台袖の階段に座って彼女を待つことにする。下段に座れば、実はすっぽり姿が隠れてしまう秘密の場所と化すから、邪魔も入らないと考えて。姿を見せてくれるなら、ひらひらと手を振って。)純。(明るく笑っては、その名を呼んだ。)ちゃんと会えたじゃん?(こっち座れよ、と隣を指差して。「ちょっと狭いかもしんねーけど。」彼女の驚きを狙いつつ、並んで座ることを試みる階段の幅の狭さはこの男の想定外でもあったか。)
米屋陽介 2022/2/14 21:32 No.25
(こちらに気付いた彼が浮かべた笑みに、どうしようもなく胸が高鳴ったのは彼に恋をしている何よりの証明だった。周囲の目がある以上、“彼女”として想いを伝えることは叶わないけれど、なかなか会うことのできない恋人にこうして直接チョコレートを渡せるだけでも十分だ。そう、心の中で言い聞かせていた矢先。この場を後輩に任せ、体育館を後にしてしまう彼を囲んでいた女子生徒たちから「もう行っちゃうんですか~?」と残念がるような声が上がる中、またしても置いてきぼりを食らってしまった女は状況を飲み込めずにきょとんと呆けていたけれど。ポケットの中で震えるスマホに気付けば、そこに表示されたメッセージに目を見開いて。慌ててロックを解除し、全力で走る猫のスタンプをぽんと送信しては極力目立たぬようにと彼と同じルートを辿って舞台袖へと向かった。階段の下に彼の姿を見つけたなら、ぱっと表情を明るくさせて。)陽介くん!(空いている方の手を振り返し、ぱたぱたと彼の元へ駆け寄るさまはご機嫌に尻尾を振る犬さながらだった。)うんっ。でもゆっくり話せる時間はないかな~って諦めてたから…へへ。顔緩んじゃう。(困ったように眉を下げて笑いながら、左手の甲で口元を隠す仕草は気恥ずかしそうなそれで。彼に促されるまま腰を下ろそうとするも、想定よりもずっと階段の幅が狭いことに気付けば思わず彼の方を二度見してしまう。ここ?と再び確認するように指を差して、彼がそれに頷くようならあからさまに困惑しながらも、やがて観念したように「えっと、お、お邪魔します…」と変に畏まった声と共にそろりと彼の隣に腰を落ち着けた。肩同士が触れ合うほどの距離感に心音がうるさくなるのを感じながら、膝の上に乗せた紙袋を抱える指先まで熱くなっている気がした。)ボーダーの人たち、すごい人気だね。…よ、陽介くんもその、本命もらったりとか…。(わかりやすく言い淀みながらも聞かずにはいられなくて、ちらりと隣の彼を窺い見る視線はどこか不安げだ。)
天沢純 2022/2/15 02:10 No.34
(もう行っちゃうと思うじゃん?──とは、まあ流石に彼女の他には伝わるまい。全力疾走スタンプには、ふっと穏やかな息も零れて、『こけるなよ』と揶揄混じり──もしかして、ちょっぴりはにかみ混じりの返信も送ろうか。さして待たぬうちに二人きりの再会果たすなら、わかり良い喜びように双眸が細まり、機嫌よく口許も緩んでゆく。締まりがなくても困るので、だらしなくはない程度ではあるが。)普段あんま時間とれねーから、このくらいはな〜。後輩に借り作って会いにきた甲斐あったわ。元気そーでよかった。(面映そうな彼女をして改めて覚えるのは、好ましい相手と心通わせている充足感と、寂しい思いをさせているのだろうという実感か。位置取りの確認にはさして躊躇わずに頷きつつ、それ以上は催促せずに待ってみる。「え?ここ、ひとんち?」と遠慮がちながら隣に座る様がまた面白いのか愛らしいのか、くっと喉が鳴った。特別に彼女の背丈が高い──というふうに思っているよな素振りを見せたことはないし、実際に思ってもいない。しかしこうして座っていた方が気にすることも少ないのではないかとは、あくまで自己満足で口にはしない配慮ではある。ともあれ、男にとっては収まり良いならひとつ満足げに頷いて、腿に膝ついては近しい距離の恋人を遠慮なく見遣ろう。)まあ、人気がないとやってられないからな。……んー?気になんの?(日頃の隊員たちの働きが身を結んでいるということなのだろう。うなずくもどこか他人事のように響くのは、後半の彼女の関心の方が自身にとって、余程重要だからである。)全然。別の隊員のついでとか、基本的に義理ばっかじゃねーか?そういうのは学校の方が可能性あるかもな。(ボーダーとしては目に見えて華やかな隊員の方がそういった対象だろう。先程までの事実とあくまでも可能性の話の推察を述べる。「……心配?」ゆるく首を傾げては、確認というより、そうやって問うのを躊躇わぬよう、懸念があるのなら吐露するよう促すような口振りだ。)
米屋陽介 2022/2/15 05:33 No.36
へへ…会いに来てくれてありがとう。でもチョコ渡す前に行っちゃったからびっくりしたよ。目が合ったって思ったのも勘違いだった…!?って、ちょっと焦っちゃった。(彼と久しぶりに会えたことで舞い上がっていた自覚はあったので、照れくさそうに笑いながら肩を竦めた。不慣れなぎこちなさを笑われてしまっても、そこに悪意がないと分かるから「もう」と咎めながらも簡単に許せてしまうのだ。高身長にコンプレックスを持っていた女は、たった数センチしか変わらない彼にどう思われているのか最初の頃は気になって仕方なかったけれど。まるで些細なことだと気にも留めていないように接してくれるから、猫のように背を丸めることなく笑っていられる。彼を含め、ボーダー隊員に憧れを抱く女の子はこの学院に限らず多く居るのだろう。実際にその光景を目の当たりにした今、恋人としては心配になってしまうというもので。)き……気になります…。(バツが悪そうに目線を逸らしつつ、膝の上でもじもじと両手の指を組み合わせながらもやついた心中を素直に白状した。)そっか、よかったあ…って喜んじゃダメだったかな!?(その答えにほっと胸を撫で下ろすも、すぐにはっとしたように口元を押さえては自己中心的な考えを秒で反省する。それでも己の知らぬところでもらう可能性が浮上すれば、ほんの少し表情が曇った。己よりもずっと彼と過ごす時間が多い、顔も名前も知らぬ女の子たちが羨ましく思えてしまって。そんな心情を見透かしたかのような問いかけに、彼を映した瞳がはたと丸みを帯びる。己の遠慮しがちな性分を案じ、素直な気持ちを口にしやすいよう気遣ってくれる彼の優しさに胸がきゅうと締め付けられるようになって。僅かに躊躇うような間こそあったものの、最後には小さく頷いた。)陽介くんと同じ学校の子が羨ましいな~って思うし…さっき女の子たちに囲まれてるとこ見たから、やきもち妬いちゃったのかも。(不安を抱く本心を打ち明けたのはこれがはじめてで、なんとなくきまりが悪い。だから、胸の高さまで持ち上げた両手を振っては「な、なんてね!?」と明るい調子で取り繕った。)
天沢純 2022/2/15 15:17 No.40
あのまま受け取ってたら他のヤツと変わんねーからさ……そもそもオレが見逃すわけねーじゃん。純に会いに来てんのに。(会いたかったのは自分だって同じとも言いたげに。つまるところ、交際を明らかにできない分は、この一人が特別なのだとせめて相手には伝わるよう動いているつもりらしい。な、と同意を求めてみるが、説得力がどれほどあるかは日頃の行い次第だろうか。まだ成長期で自身の方が伸びるからと基本的におおらかに構えている男は、当然のように彼女を一番に据えている。しかしそれだけでは拭えぬ不安があることも薄々理解はしているので、想いを知るこういった機会は逃さない。)なーんで悪いことしたって顔してんだよ!いーんじゃん?そう思って普通だろ。変に我慢される方がオレは気になるって。(やっと伝えてくれるのを見守りながら聞かせる声色は、あくまでも穏やかだ。はじめて不安を受け止めてやれると考えれば、むしろ嬉しそうにすら聞こえるかもしれない。とりあえずは言い諭すかのように告げやって、噤まずに済んだ本音ひとつひとつに「ん」やら「おお」やらと、単音でも丁寧に相槌を打つ。なるほどな、とちょっぴりの思案の間を置いて。)そりゃ共学な分、一緒に学校生活を過ごせる女子はいるけどなー。……オレからチョコねだられるのなんて、純ぐらいじゃねーの?それじゃ足んないか?(彼女がかかえているその紙袋は、きっと自惚れでもなんでもなく自分の為に用意されたものに違いない。何を受け取るにしろ、自ら手を伸ばしたいと願うのはこのたった一個だけなのだけれど。頬杖解いては、つんと膝上の紙袋をつついて。彼女とまみえる機会の他に、立派にこの贈り物も楽しみにしていた。)それか、オレが米屋陽子になるしかねーかなあ。ごきげんよう、つって。(そんな冗談をやたら神妙に呟くのは、取り繕いでもなんでもなく、彼女を笑わせようとして。)
米屋陽介 2022/2/15 22:39 No.45
(彼のまっすぐな言葉にぶわりと頬に熱が灯るのを感じる。当たり前のような特別扱いが嬉しくて「うん」と頷いた自分の頬が緩んでいるのが鏡を見ずとも分かってしまった。)ご、ごめん……その、あんまりこういうこと言われたくないかなって。(なにせ己にとっては初めての恋人だ。どこまで我儘を言っても許されるのか分からずに、ひとり悩んでいた心を拾い上げてくれた彼の優しさに触れたなら、視線を下げながらも鍵を掛けて閉じ込めていた想いを少しずつ打ち明けてゆく。)多分、わたしが自分に自信がないから余計に心配しちゃうのかも。…でも、陽介くんがそう言ってくれて嬉しいし、ほっとしたよ。(そこでようやく彼の方を向けば、柔らかく微笑むように目を細めて。今日のために用意した贈り物を隠すつもりもなかったけれど、いざこうして触れられると緊張してしまう。でも、彼があんまり神妙な顔で冗談を言うものだから、きょとんと目を丸めたかんばせもたちまち笑みへと変わった。)あははっ、陽子ちゃん、わたしよりおしとやかだ…!(くすくすと笑う度に小さく肩が揺れる。ちっぽけな不安を吹き飛ばすかのように、こうして笑わせてくれる彼のことを好きになるのはきっと必然だった。その想いをきちんと伝えたくて、彼の方を向くように体勢をずらせばとんと彼の足に膝が軽くぶつかってしまう。それくらい近しい距離感を思い出した途端に速まった鼓動を落ち着けるべく、ゆっくりと息を吐いて。)あ、あのねっ、これ…大きい方は三輪隊の人たちと食べて。それと……もうひとつの方は、陽介くんに。(そんな言葉と共に差し出した手提げの紙袋の中には、それぞれ大きさの違う箱がひとつずつ入っている。まずひとつ、淡いブルーの箱は彼が所属する隊に宛てた既製品のチョコアソート。そして、もうひとつのアイボリーの箱は彼に宛てたものだ。赤いリボンを解き、蓋を開ければ刻んだチョコを振りかけたくるみ入りの四角いブラウニーが食べやすい大きさにカットされた形で綺麗に4つ収まっている。好きな人にチョコレートを渡す瞬間というのはこんなにもどきどきするものなのかと、顔が赤い自覚もあれば彼の目を見ることもできずに視線は横へ逸れてしまったけれど。)
天沢純 2022/2/16 12:39 No.53
あー、そういうやつもいるもんか。オレは気にしねーよ。彼女にモテりゃ十分。純次第ってことで。(自分では思い至りもしない配慮が浮かぶのは、彼女の心優しさゆえのことと思うし、どちらかと言えば他者の言動に振り回されない男は彼女が彼女らしく在れることをいっとう望んでいる。こうした感覚の擦り合わせは重要と理解しているからこそ、おざなりではなくしっかりと否定し首を振っておく。その甲斐あってか彼女の安心を誘えたなら、「うっし、そんならオッケー」と此方も笑うだろう。)あらぁタイが曲がっていましてよ、純さん。……えっ、つーかお嬢様校の挨拶ってこれじゃねーの?マジでこのやり取りするもんだと思ってたわ。(妙に高音で発されたおとぼけは、若干女子校に対する間違った認識による素ボケだったらしく、少し黒目をまるくしつつ、狙い通りの結果は得られたのでひとまずはよしとする。膝がこつんと当たっても、ぱちと瞬きが一回増えただけで体を引くこともせず、ゆっくりと向き直って。しっかりと大事に受け取った。)おっ、サンキュ。渡しとくぜ。……よっしゃ、こっちがオレのか。今食っていい?ちょうど腹減ってるし。(紙袋を覗き込んで、自分宛てと教えて貰った箱を取り出しては、まじまじと眺める。見たところ手作りかと思しきそれにすっかりそそられて、許可を取る前にちゃっかりとトリオン体の換装を解いた。隊服から胸元が緩めの学ラン姿に変われば、リボンに手をかける──その前に。)純。……これって義理?それとも本命?(学生服で向き合うふたり。交際中の彼氏と彼女。答えなどわかり切っているくせに、欲しがるのはチョコレートだけに留まらない。視線がはぐらかされていても逃さぬように、顔をそっと覗き込む。その淡く色づく頬に気がついていないはずがない。浮かべているのは、ほんの少し意地の悪い微笑みだったかも。)
米屋陽介 2022/2/16 23:51 No.61
っふふ、も、もうやめて……。わたしも入学する前はそういうイメージ持ってたけど、普通の学校とそんなに変わんないよ。(すっかり笑いのツボを刺激され、目尻に浮かんだ涙を拭いながら彼の偏ったイメージを面白がる声にも笑みが混じる。通う学校が違えばそこでの様子を知らないのはお互い様で。今更ながら、こうして彼と学校内で会っているのはなんとも不思議な心地だと、目の前の恋人をしみじみと眺める。贈り物を無事に受け取ってもらえれば、ようやく肩の荷が下りたようにほっと安堵の息を漏らした。)あっ、うん!どうぞ!ちゃんとおいしくできたとは思うんだけど…。(人差し指で頬をかきながら、ぽつりと小さく落とした声は彼に贈ったそれが手作りの品であることを仄めかしていた。この場で感想を聞くことになると思えば緊張しない方が難しく、それは彼が隊服を脱いだ“普通の男の子”に戻れば尚更に。ふと名前を呼ばれれば「うん?」と首を傾げて彼の方を見遣るも、そこに続く言葉を聞いてぴしゃりと石のように固まった女の顔はみるみるうちに赤く染まっていっただろう。分かりきった答えを求める彼のいじわるな笑みに太刀打ちできず、はく、と唇を開いた女の言葉にならない声が白旗を上げていた。こちらに逃げ場を与えてくれない彼に「ず、ずるい……」と拗ねたような声で言い返せば、カーディガンの袖で隠れた手を膝の上できゅっと握りしめて。こちらが観念することで交わる視線はきっと、さっきよりも近かった。)…本命、だよ。陽介くんはわたしの好きなひと…だから。……うぅ~~っ…!(たったひとりに抱く恋心。それを包み隠さず伝えるとなればキャパオーバーも必然で、耳まで赤みを帯びた顔を隠したがっては彼の肩口にぽすんと額を預けるような形で寄りかかる。だが、その場凌ぎの行動は時間差で羞恥を引き起こし、どう言い訳をしようとぐるぐる思考を巡らせる頭は軽いパニック状態だ。結局いい考えは思いつかず、ばっと勢いよく離れたなら「ほ、ほら!食べて食べて!」と仕切り直すようにチョコレートを勧めてしまおう。)
天沢純 2022/2/17 12:57 No.62
オレには未知の世界過ぎんな〜。……女子校選んだ理由ってあんの?やっぱ男は苦手?(今やこうして衒いなく笑顔を見せてくれる彼女ではあるが、初対面の頃は流石にぎこちなさもあったように思うので、何とはなしに問うて。自らは頭脳が足りぬとはいえ進学先をわざわざ選ぼうと考えもしなかったから、これもまたある種未知への興味だったりする。)料理までできるってことじゃん。すげー。多才だよなァ、ほんと。(彼女への信頼があるので、味の心配などは最初からしていなかった。この男が知っていて指折り数えられる彼女の長所が数多ある。シンプルに感心したふうな呟きののちに落としたものは、勢いだけで言えば爆弾にも似ると自覚はあって。好きな子は少しつつきたいなどと、ありふれた一人の男の情緒が自分にも存在していることに感慨さえ覚えている近頃だ。多少へそを曲げられてもお構いなしにかろく笑い飛ばして、彼女から何某かが齎されるまで撤回する気はさらさらない。)──……知ってた。……つってな、ははっ!……いやあ、流石に照れるわ、オレも。(促しておきながら、羞恥がないわけではない。感じる温かな思いが、甘いお菓子に言葉まで添えられて与えられたなら、赤面というかたちで表れなくとも、くすぐったいには違いないのだ。逃避先に己の肩口が選ばれたなら素直に甘えて貰うとして、「ありがとな」と伝いながらぽんぽんとそのまま数度優しく後頭部を撫でてやる。彼女によってたしかな満足を得た男は、好きな異性のチョコレートを味わうという名誉に預かるとしよう。)……うまっ。(するりとリボンを解き、まずは一口。あとは止まらなくなって、ひょいひょいと口に運んでは瞬く間に箱は空っぽになってしまった。ぺろりと唇舐めて余す所なく楽しみ、頂きますは逸る気持ちで実は忘れてしまったのだけれど、手をしっかりと合わせて。)ごちそーさま。これならマジでどんだけでも食えそう。菓子作り嫌いじゃねーなら、また作ってくれよ。(彼女から貰う甘さに、すっかり味を占めた様子である。)
米屋陽介 2022/2/17 23:35 No.66
うん、それもあるし……あとはお姉ちゃんが星女生だったのもあって憧れてたんだ。制服もかわいかったから。(にっと口角を持ち上げ、胸元のタイを指差したのはお気に入りのセーラー服をアピールするように。異性が苦手であるとはっきり打ち明けたことはなかったけれど、知り合ったばかりの頃はろくに目も合わせられない挙動不審っぷりだったから、きっと察するには十分だっただろう。だから、こうして彼と交際するまでに至ったのは大袈裟じゃなく奇跡みたいなもので、ふっと目を細めては「こんな風になるとは思ってなかったな」としみじみ呟いた。)陽介くんから見たわたしってそんなに色々できるように見えてるの?(自分に自信がない女は、彼の呟きにいまいちピンと来ていない様子で首を傾げた。彼の言動や行動にペースを乱されてしまうのは、何も今に限った話じゃない。早々に逃げを打ったせいで彼の顔を窺い見ることはできなかったけれど、最後に落ちた声にぱちりと双眸が瞬いて。)陽介くんも照れることあるんだ…?(その一瞬だけは恥ずかしさを忘れたように、素直な驚きの声がまろび出た。いつも飄々としている彼だから、照れという感情と結びつけるのはどうにも難しくて。優しく撫でてくれる手のひらによって落ち着きこそ徐々に取り戻せたものの、再び向かい合うときも顔の赤みはうっすらと残ったまま。彼がブラウニーを口に運ぶさまを見つめる面持ちは緊張感に満ちていたけれど。)よ、よかったぁ~…!(彼の口から「おいしい」の声を聞ければ安堵したように肩の力が抜けて、口元をゆるりと綻ばせた。それからあっという間に完食してしまうのを見届ければ、もっと作ってくれば良かったと惜しむ気持ちが生まれながらも、やはり嬉しさの方が勝ってしまおう。)へへ…陽介くん褒め上手だなあ…。もしリクエストとかあったら言ってね。(眉を下げて照れくさそうにはにかみながらも、あっさり快諾するあたり満更でもない様子で。膝を抱えた腕に顔を埋めることで緩んだ口元は隠せても、そこに幸せだとわかりやすく書いてあるのは誤魔化しようがなかった。)
天沢純 2022/2/18 15:43 No.72
制服か。……そう言われてみれば、似合ってんな、それ。(目から鱗の観点だった。性差につくづく感じ入りつつ、努力の結果憧れを身に待とうその姿が、より彼女に似つかわしいように思えて、素直にこぼれ落ちた。無関心だった以前からの変化は、今しがた教わった事実のお陰だろう。移ろった関係性においては、「めげずに話しかけまくった甲斐はあったな〜」とわざとらしく他人事のように呟き返して。)星女に入れるぐらい勉強もできて、バレー部で運動もできて、お菓子も作れる。一人の人間にしたら出来過ぎなくらいじゃねーの?それだけ努力もしてんだろーけど。(世辞でも何でもなく明らかな事実として述べて、促せば未だ長所が出てきそうな余地があることも思わせる。逆に、そう疑われることが不可解な様子なら、彼女の傾けたのとは逆の方向に首傾げて見せて。)おーい、オレのことなんだと思ってんだよ〜。……照れんじゃね?ふつうに。照れるようなことしてくれたら。(咎めるような口振りでいて、しかし気に留めているわけではない軽い揶揄のような声色だ。どこか他人事のように響かせてしまうのは、彼女に自ら進んでは見せられない類の感情ゆえではあるけれど、少し口許が面映そうに緩んではいるか。添えた“もしも”は、ある種彼女に向けた挑戦状のようなものだ。)……どっちがチョコ貰ったのかわかんねー顔じゃん。(己の言葉に安堵して喜ぶ様が微笑ましく、まるで彼女の方が贈り物を貰ったかのようにさえ見えて、ふっと笑う息が溢れた。)んー……マフィンとか?作ってるところも見てみてーかも。さっきのってチョコレートの板から作るんだろ。想像つかねー。(リクエストと問われては、案外に菓子の語彙がないことに気がつき、ひとまず知っている単語かつ腹の膨れそうな品を挙げてみる。「因みにさっきのはなんて名前のやつ?」と確認しつつ、原材料からの変貌への感想を呟いて。実際目の当たりにした暁には、魔法じゃねーかなどと騒ぎ立てるのだろう。)おっと。……そういや、お返しは?……何がいいとかあんなら、今のうちだぜ。(ひと月などあっという間に経過する。それこそリクエストがあるのなら問うておこう。)
米屋陽介 2022/2/20 01:42 No.79
(すっかり着慣れた高等部の制服も、彼に褒められることではじめて袖を通したときの嬉しさと似たような感情がこみ上げてくる。彼の呟きには気まずそうに苦笑を浮かべて「お、おかげさまで……」と妙に畏まってしまったけれど、返ってきた答えには静かに目を瞠って。)そっ、か…。へへ…わたし、自分のいいところ見つけるの下手くそだなあ。…ありがとう、陽介くん。(なんとも不思議そうに首を傾げる姿を見れば、口にしたどれもが当たり前のように思ってくれている本心であると分かったから。そんなことないと謙遜せず、くしゃりと笑って受け入れることができたのは前向きになるための第一歩だったかもしれない。それは他ならない彼のおかげだ。)だって陽介くんいっつも余裕そうだから…って、照れるようなこと!?結構ハードル高くない…!?(彼を照れさせるよりも前にこちらが照れてしまいそうだと、思いつく限りの手段を想像してはあたふたと動揺してしまうあたりこちらが常に押されがちなのが現状だ。彼の感想につい緩む顔を手のひらで覆っては「もうお返しもらった気分だよ」と仄かに赤らむ顔が、嬉しそうにはにかんだ。)あ、いいねマフィン。チョコ溶かして粉と混ぜて〜ってそんなに難しくないんだよ。…そうだ、今度うち来る?そしたら作ってるとこも見れるし、焼きたても食べれるよ。(これ名案とばかりに人差し指を立て、軽い調子で誘いを持ちかけることができたのはお菓子作りという明確な目的があったからだろう。彼が平らげた菓子の名前を問われれば「さっきのはブラウニーだよ」と笑みと共に返しつつ。逆にリクエストを聞かれれば顎に人差し指を当てながら、思考を巡らせるように上の方へ視線を向けて。)う〜ん…マカロンとか…?でも、陽介くんがわたしのために選んでくれたものならなんでも嬉しいよ。(お菓子に限らず、見た目のかわいいものに何かと惹かれがちだ。だが、“なんでも”という返答では却って困らせてしまうかと、ちらりと彼のかんばせを窺っては「それかね、」と切り出す声は遠慮がちに。)当日じゃなくてもいいから…デート、したいな。…っていうのはあり?(膝を抱えて身を小さくしながら、眉を下げて笑う顔はちょっぴり自信なさげに。彼と過ごせることが何より嬉しいのだと、彼の目をまっすぐに見つめていたのは遠回しに告げた本心に気付いてほしくて。)
天沢純 2022/2/21 09:58 No.89
案外、顔にでないだけかもしれねーじゃん。……なんか案、あんの?なに想像した?(確かに喜怒哀楽のうち楽だけがわかり易い男ではあるけれど、相手にしているのは自分のことを否定して欲しくはないと、大切に思っている女の子。そしてこちらは一応は男子高校生。彼女の試みによっては物珍しい顔も見せられはすると思うのだが──想像するだけで大変そうな素振りを見れば、おもしろがっているのを隠せない上機嫌な声で問うて。やはり、分は此方にありそうか。抱いたままの感想を落としただけで綻ぶ健気な様を見てしまうと、ホワイトデーにはもっと喜ばせてしまう気になってしまっても、仕方がないはず。何気なく落とした欲求に対する彼女の答えは恐らく最適解ではあるが、)そりゃ、オレはいいけどな……?まあ、いいか!ご挨拶の準備しとくわ。マフィンの焼きたて食いてえ。(よもや彼女から自宅に誘って貰えるとは思っていなかった。しかし下手に尋ね返して機会を失ってもつまらない。彼女が招いてくれるのであれば気が変わる前に乗っかってしまうとして、その日を楽しみにしているとも言いたげに笑みは深めておく。あまり縁のないスイーツの横文字の羅列に、ふんふんと熱心に相槌ばかりは打ちはしながら。)まかろん……って、あの……色が派手で甘いやつ?おもちゃみてーな見た目の?……ん?(相手が選んでくれたものであれば嬉しいという気持ちは、この男自身にもあてはまることだ。悩む楽しさというのもあろうし、彼女のことをより知る機会となれば、教えてくれたのを素直に参考にさせて貰おうとしていたのだけれど。代わりの提案には一瞬虚をつかれたような間を置くが、すぐに双眸細めて笑った。)ありよりのあり。寧ろ最高じゃね?……いーよ。デートしようぜ。(ひと月後なら、スケジュールを調整して休日の一日くらいは何としても彼女のために確保する。そのくらいの約束はしてみせよう。視線交わらせたそのひとみの深くに滲む願望は、ふたり共に共通するものだからこそ。ああ、と悩ましげな声を漏らして、少し上体を逸らして足を投げ出しては。)行きたいところありすぎて困るけどな〜。(などと、なんとも贅沢な悩みだ。)
米屋陽介 2022/2/23 02:21 No.101
それずるいなあ、わたしはこんなに顔に出ちゃうのに……って、ええっ!?そ、それはその………き、キス、とか……。(まるでお見通しとばかりに痛いところを突かれてしまえば、驚いた声が裏返ってしまい恥ずかしそうに身を縮める。ぎゅっと膝を抱える腕に口元を埋めながら、白状した声は今にも消え入りそうなものだったけれど。なにせ恋愛に不慣れな女は、自分から恋人らしい触れ合いを仕掛けたことはなかったので。今の時点で耳まで赤くなってしまっているあたり、やはり彼のことを照れさせるまで至るにはまだ程遠いか。)ご挨拶って…あ、そっか。もし質問責めとかにされたらごめんね…。(自宅に彼を招くとなれば、恋人の存在を家族にはじめて明かすこととなる。あれこれ聞きたがる母や姉の姿が想像できて、やんわりと眉を下げたかんばせには苦笑が浮かんだものの、先程の提案を撤回する様子がないのは彼と時間を共有できる喜びの方が勝ったからだろう。あまり馴染みのないのだろう単語を真似してなぞる姿がなんだかかわいくて、つい可笑しげな笑みがこぼれてしまった。)そう!動物の顔になってるのとか、かわいいのいっぱいあるんだよ。(こうして好きなものについて話すときの女は、いっそう楽しげで生き生きとしていた。いつもにこにこと笑いながらも、忙しい彼にデートがしたいとねだるのは気が引けてしまい、これまで遠慮ばかりしていた女にとってはじめての試み。じっと彼の答えを待つように見つめていた瞳がゆっくりと瞬けば、喜びをそのまま映したようにぱっと明るくなった表情と共にきらきらと輝いて。)やった〜!へへ…ありがとう、お願い聞いてくれて。すっごく嬉しい。(くすぐったそうに肩を竦め、双眸を細めた笑みは柔らかく。彼を真似るように畳んでいた足を投げ出しては、その声に同意するよう頷いて。)わたしも。一緒に買い物とかご飯食べにも行きたいし、遊園地もいいなあ。(きっと、彼とならどこだって楽しめるに違いないから。思いつくままに行きたい場所を指折り数えながら、久しぶりのデートに浮かれる心地が弾む声色にも滲み出ており、彼の方へ顔を向けて「全部行けたらいいね」と笑いかけては、彼とのこれからに想いを馳せた。)
天沢純 2022/2/23 23:07 No.108
ふーん、キスか。 ま、純はそんままでいいんじゃん。オレは付き合ってて楽しいし。(顔に出なくてずるいと言われたので、分かりやすく「覚えておきます」とも言いたげな、意地悪な顔をした。そういった問題ではないとはわかった上での確信犯は、この時も楽しげで、鼻歌でも奏で始めそうな上機嫌だ。)別に全然平気……っつーか、寧ろオレの方が色々質問するかもしれねーし。なんならめちゃくちゃ盛り上がるかもな〜。(緊張するような性質でもないから、あれこれと興味を持ってくれるなら寧ろ親しみ易そうで何よりだ。彼女自身からは聞けないようなことも、家族からなら齎されるかもと考えれば、焼きたての手作りのお菓子の他にも楽しみが出来たと笑みが深まった。)へー……?すげーな。色々種類があんなら、オレがひとりで選ぶより、一緒に見た方が楽しくね?店、探しとく。(未だたどたどしく、ピンと来ていないようだが、自分とは違ってあからさまに嬉しさが弾ける様子に、ぱちぱち眩しそうに瞬いた。そしていくつかマカロンとやらを取り扱う店を巡って、その反応を見守りたくなったなら、出掛ける先の候補にも挙げてみて。二人で出掛けるなんて、付き合っている男女ならば当たり前だろうに、何気ない約束ひとつにも喜んでくれることに、指先まで温もる心地がする。どういたしまして、と穏やかな声で伝った。)オレはスポッチャとか行きてーかな〜。(どうやら二人合わせれば、随分な数になりそうか。まんざらでもない悩ましさは幸いと同義だろう。同じようにニッと笑った顔を向けて。)全部行こうぜ。ゆっくりになるかもしんねーけど、純の“お願い”はできるだけ叶えてやりたい。(だから、これからも遠慮はしなくていい──とは、またゆっくり伝えてゆけたら。このタイミングでスマホが通知音を鳴らす。後を託した後輩から、そろそろ戻ってこいとのお達しだ。)じゃあ、そろそろ戻るわ。今日はありがとな。(しっかりチームメイトに渡しておくと貰った紙袋を持ち上げて、立ち去ると思いきや──「純、」とまた大切に名前を呼んで、今日たくさん慈しみを告げてくれた唇に、触れるだけの口付けを試みる。)ごちそーさま。(本日二度目の甘さを感じられたのなら、ふっと笑って──残念ながら叶わなかったとしても、その後くしゃりと頭を撫でてから立ち去ろう。その横顔を窺う余裕があったならもしかして、ほのかに赤味が差していたのかも。)
米屋陽介〆 2022/2/25 02:28 No.116
も、もしかしてわたしの反応面白がってたりする……?(己の余裕のなさを思い返せば、じわじわと恥ずかしさがこみ上げてきてしまう。自分の頬を指し示して「陽介くん、今いじわるな顔してるよ」と指摘する声は少しむっとしたように、頬を膨らませた表情は怒っているというよりも拗ねていると言った方が正しいだろう。)えぇっ!?それはちょっと恥ずかしいんだけど…!?陽介くんとお母さんたち、あっという間に仲良くなりそうな気がする…。(もちろん大好きな人たちが仲良くなるのは嬉しいけれど、その話題次第ではものすごく居た堪れない心地になりそうな気がして。そんな複雑な心境が、眉を下げた悩ましげな表情にも表れていたか。)いいの?色んなお店に連れ回しちゃうかもだけど……わたしもその方が嬉しいから、お願いします。(いつもの癖で躊躇いかけるも、ふと思い直したようにぺこりと頭を下げては小さくはにかんだ。またひとつ、増えた約束に胸が温まる心地を覚えながら、彼が挙げた場所には「わたし、スラックラインは勝てる自信あるよ!」と楽しげに声を弾ませて。彼と過ごす日々には楽しみが尽きず、それに応えてくれる彼の言葉にいっそう表情を綻ばせて「うんっ!」と返す声は嬉々としていた。だが、彼と共有する時間は楽しいぶん過ぎゆくのもあっという間で。)あ、もうそんな時間かあ……ううん、わたしの方こそありがとう。時間もらえて嬉しかった。(寂しげな顔をしたのも一瞬で、すぐに明るい笑みを浮かべては「お仕事頑張ってね」とエールを送るように握った拳を持ち上げて、再び“ボーダー隊員”に戻る彼を送り出そうと。だが、己を呼ぶ声を合図にふたりの距離が近付けば目を瞑るのは反射的に。そのまま触れた唇の熱がたちまち伝染していくみたいに頬を染めて、そろりと瞼を持ち上げてからもうまく彼の顔を見られなかったけれど。頭を撫でる手が離れてしまえば、はっとしたように慌てて立ち上がろうとする。だが、彼を見上げた双眸が去り際の横顔を捉えれば、へたりと力が抜けたように再びその場に座り込んでしまった。)や、やっぱりずるい……。(両手で顔を覆いながら、弱々しい声で呟いたのは何度目かの降参宣言だ。あれだけ余裕そうだった彼の、仄かに赤みの差した頬にどうしようもなく愛おしさがこみ上げてしまって。甘いチョコレートだけじゃなく、このときめく恋心もとっくに彼に捧げてしまっている。)
天沢純〆 2022/2/25 16:23 No.119
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