Free
(少女は未だかつて無いほどの真剣さでバレンタインという特別な日に向き合っていた。と言うのも恋人にチョコレートを渡すという一大イベントが待ち構えているのが理由だ。夜な夜な試行錯誤を繰り返し、半泣きで出来上がった最後の一回が神からの慈悲だったのかもしれない。睡眠不足丸出しの顔で逢いに行く訳には行かず余韻に浸る間もないまま眠りに落ちた。どうか明日無事に渡せるといいのだけれど。──然しそんな願いは儚く散ることとなった。朝から騒がしいのは日頃からのものだが、今日の賑わいは声色がまるで違っていたのだ。)……えっ、今日ってアイドルでも来るんだっけ?(なんて言葉が漏れてしまうのは許して欲しいところだが、彼も同じように誰かから気持ちの籠った贈り物のを受け取るのだろうか。彼の性格からして苦手なイベントである筈だけれど、彼も精鋭ボーダー隊員の一員だ。様々な想いがせめぎ合う中、早足で体育館へと向かったなら生徒達の姿が彼方此方に集まっていた。視線は彼の姿を探しながらも、目撃したくはない気持ちもあり複雑な心境だ。暇を持て余していた一部のクラスメイトによってアレンジされた髪型は両耳上でゆるくお団子にされ、お気に入りのリボンで飾られていた。)……そもそもほんとにいるのかな………… ──あっ。(後ろ姿でもよく分かる。この人混みの中見つけられた事にささやかな喜びを感じつつも、背中の向こうには可愛らしい女子生徒が並ぶように立っていた。ちくちくと痛む心の狭さに唇を尖らせて不満を漏らし、その特別な背中に向けて刺さるような視線を送るとふと横から聞こえた声は自身にかけられたものだった。)………しろくーん……──なっ、なんて聞こえるわけないか。(未だ動けずにいた体育館出入口の扉から顔を覗かせながら放った囁き声。幾ら彼でもこの声が届くことは無いと小さく溜息を吐き出しては廊下へと姿を隠した。公に出来ない関係に優越感を抱いていた事もあったが、今は少しばかり女生徒達を羨ましく思った。「屋上でチョコ冷やしてるから!」なんて訳の分からない内容を送ったLINEに彼が気付いてくれるかも分からないが、一足先に登った先の屋上前に座り込み、ただただ想いを馳せながら待つ筈で。)
小宮咲稀 2022/2/14 09:15 No.13
(話は数日前に遡る。全員が揃った作戦室にて、隊長の口から淡々と語られた俗っぽいイベントに男は分かりやすく顔を顰めた。そのメンバーに己が選ばれたとなれば尚更。)えー……そういうのは広報担当の仕事じゃないんですか……。(だらりと作戦室の机に突っ伏した男は唇を「3」の形に尖らせる。以前なら同隊で同輩の彼に適当な理由をつけて押し付けていただろうけど、ぶつぶつと文句を垂れながらも「行かない」という選択肢を取らなかったのは、ある存在が起因していたのだろう。そうして迎えたイベント当日。ボーダー隊員たちが体育館に足を踏み入れるや否や、色めき立つ声にげんなりした。メディア向けの隊をメインにしたイベントで、己は所詮数合わせのうちの一人に過ぎない。それでも、己や同隊の面々にとチョコレートを携えてやってくる女生徒も存在するわけで。「きちんとお礼を言うこと」と例の同輩とオペレーターから念入りに釘を刺されていた男は、その業務を当たり障りなくこなしていた。)どうも。みんな三倍返しするって言ってたんで楽しみにしてていいと思いますよ。(ただ、彼らがこの場に居ないのをいいことに好き勝手宣ってはいたけれど。そんな折、ふと体育館の入口の方へ視線を向けたのは己の名を呼ぶ声を拾ったからだった。その姿は確認できなかったけれど、あんな呼び方をするのは一人しかいない。)聞こえてるよ……。(男がぼそりと独り言のように落とした声は、絶対に届きやしないけど。人がはけ始めた頃合いで、周囲に残った数人の女生徒に適当な断りを入れて体育館を後にした男はスマートフォンを確認する。「それ、冷やすどころか凍りそうだけど」と素っ気ない返信に既読がつくのも確認しないままポケットに仕舞い込み、溜息を吐きながらも屋上に繋がる階段へ向かう足取りに迷いはなかった。)──初めて来た人間に案内してくれる気とかないわけ?(開口一番、彼女に向けて放った一言には相変わらず棘があったけれど。制服姿を一瞥し「寒くないの」と掛けた声は、生身の彼女を気遣ってのもの。)
菊地原士郎 2022/2/14 11:34 No.16
(この企画を聞いた当時は深く考える事もせず手放しで喜んでいたが、ふたりの関係を公に出来ない以上複雑な気持ちだけが膨らんでいた。元々こういった騒がしい事は苦手な彼にお願いをするのも気が引けたのだが、文句を言われながらも承諾してくれた事を少しは自惚れてもいいだろうか。階段を登る足音、視界に映りこんだ彼の姿にも。)──っ!しろくん…!(思わず衝動的に立ち上がったなら目には見えない尻尾が千切れんばかりの勢いで振られているだろう。然し其れをそのまま表に出せる程可愛げがある訳ではなく、ハッとした次の瞬間にはそろりと視線を逸らして誤魔化す筈で。)そっ、それは〜……階段登るだけだし大丈夫でしょ!しろくんなら!……あっ、も、もしかして迷っちゃったっ?(もっと分かりやすい場所も考えなかった訳では無いが、誰かに目撃されるリスクを考えた結果だ。聡明な彼ならば分かってくれるだろうと甘えていたのも確か。よもや迷子になるだなんて無いだろうけれど、其れはそれで珍しい彼の姿が垣間見える。何処か楽しげに聞こえる声音にはそんな色が含んでいただろう。)さ、寒いって言ったら暖めてくれるの?……──なっ、なんて冗談だからねっ。全然寒くないしっ、よゆーだもんっ。(彼からの分かりやすい気遣いだけでも心暖まると言うのに、もっとと欲張ってしまうのは暫く会えていなかった反動だろうか。軽い気持ちで伝えた欲に今更ながら恥ずかしさが込み上げる。冗談で誤魔化すも心音と耳の赤味までは隠しきれず、視線を逸らしたまま再び階段に座り込んだ。)………何個貰ったの?(先程の光景がフラッシュバックしながらも知りたくもないことが勝手に口から滑り落ちた。ちらちらと遠慮がちに視線を送るのは無意味だと分かりながらも、落ち着かない姿が彼の目にも映ることだろう。)
小宮咲稀 2022/2/14 17:38 No.21
(主人の帰りを待つ飼い犬よろしく、己の姿を見つけるや否や勢いよく立ち上がった彼女がどれだけ取り繕おうとも嬉しげな様子は明らかで、すっかり毒気を抜かれてしまったらしい男は小さく息を吐いた。)ぼくがそんなヘマするわけないでしょ。キミじゃあるまいし。(少しムキになって言い返したのは、その声色から想像上の自分を面白がっているのが感じ取れたからだろう。彼女のことを気にかけているくせ、選ぶ言葉はどれも捻くれたものばかり。彼女の心音の高鳴りだってこの耳には筒抜けだけれど、男の表情は然したる変化を見せずに赤く染まった耳朶をじいっと見つめたまま。)回りくどい言い方しないで、ちゃんと素直に言えたら考えてあげてもいいかもね。(何を、とは言わない。彼女が冗談として片付けたそれをあえて拾い上げたのは、こうして顔を赤らめる様を見るのは悪くないと思ったからだった。その場に座り込んだ彼女の隣に腰を下ろせば、太腿に頬杖をつくような形で視線を向ける。無理に顔を覗き込もうとはしない。)それ、答えたら答えたで小宮拗ねそうじゃん。(その認識を自惚れだとは微塵も思っていない男は、じとりと訝しむように細めた双眸に彼女の姿を映した。先程受け取ったチョコレートは控え室として割り当てられた空き教室に置いてきたので、今の男の手には何もない。単純に荷物になるからというのもあるけれど、何より彼女に会いに行くのに他の女子からもらったものを持っていくほど思いやりに欠けてもいなかったので。)……ぼくも何個かもらったけど、風間さんと歌川にってやつがほとんどだよ。こんなのただの荷物持ちに駆り出されたようなもんでしょ……。(そのぼやきにも似た声には不満が滲んでいたけれど、丸まった背をぐっと伸ばしながら「ま、誰かさんのおかげで解放されたけど」と述べた本音はここだけの秘密として。彼女とふたり、喧噪から切り離されたこの場所は居心地がよかった。)
菊地原士郎 2022/2/15 00:37 No.31
なんだあ……わっ、わたしだって迷子になったりしないし!ナビがあればどこでも行けるんだから!(あからさまに残念そうな声を漏らしたのも束の間、矛先は自分の方へと向けられ唇を尖らせる。自分の力だけでは難しいと露呈している発言を堂々たる態度で口にするのは呆れものだ。こんな会話に付き合ってくれる彼の見えない優しさには感謝するばかり。とは言え、言葉もなくただただ此方を見つめるのは心臓に悪いけれど。)〜〜っ、う、うう〜〜!(素直に言ってしまいたい自分と、この上ない恥ずかしさが込み上げる自分とのせめぎ合いに葛藤している姿は酷く滑稽に映るだろうが、本人にしてみれば真剣そのもの。じわじわと赤く染る頬は隠す間もなく、口を開いては閉じを吸うと繰り返したなら、)…さ、……寒いから…暖めて……くれてもいい、よ?(結局どちらにも振り切れずの答えが宙に舞い、恥ずかしさだけが残った。言い終えるなり彼の反応待つより先に手で顔を覆い隠しながら俯いた。今回のイベント開催から彼がチョコを貰う事も想定していたけれど、先程目にした一瞬だけでも現実であることを突きつけられた気がした。彼の言葉に口を噤み、既に拗ねているような表情で唇を尖らせていた。)でも、ほんとに来てくれると思わなかったから、びっくりしちゃった。運いいね、しろくん。(確か抽選だったという話を思い出してはその運の良さに感謝したいところ。声も書けずに逃げ出した自分が何かの役にたったとは思えないけれど、あの場所よりは幾分か落ち着けるだろうか。)──しろくん。士郎くん。…チョコ食べる?た、食べていいよ?………た、食べてほしいんです、けども……(何度言い直したことか。漸く出た言葉はどこかぎこちなく、視線を逸らしながら背中に隠していた白い紙袋をすすっと彼へ差し出した。中を覗けば、昨夜作ったオランジェットが透明なラッピング袋に入っている筈で。先日聞いた選択肢のひとつ、水色はリボンとして袋を閉じる役目をしていた。)
小宮咲稀 2022/2/15 14:55 No.39
どこでも行くのはいいけど、ふらふら警戒区域に迷い込んだりしないでよね。ぼくらの仕事が増えるから。(もし彼女が危険な目に遭ったとして、己が必ず駆け付けてやれるとは限らない。これも暗に彼女の身を案じての言葉ではあるのだけれど、やはりどうしたって捻くれている。さっさと素直になればいいのに、と自分のことは棚に上げながら赤くなったり唸ったりで忙しない彼女の様子をまじまじと眺めていた。)あっためてほしいのは小宮でしょ。どうする?もう一回やり直すって言うなら聞いてあげてもいいけど。(彼女がどうしてほしいかなんてもうとっくに分かっているくせに、頬杖をつきながら告げる物言いは上から目線もいいところ。もし本当に実行しようものなら煙が出てしまいそうだと、俯く彼女を見下ろしながら静かに息をつく。)全然よくないけど……まあ、来なかったらうるさそうなのが居たし。そういう意味ではよかったのかもね。(誰のこととは言わずとも、じっと彼女を見ながらそれを口にするあたり端から隠す気もないのだろう。己を呼ぶ声に視線を向けることで応える。未来予知のSEがなくたって、彼女が何を切り出そうとしているかは分かってしまった。ぎこちなく差し出された紙袋に落とした視線を、再び彼女の方へ戻して。)バレンタインなんて知らないって言ってなかったっけ?素直じゃないなあ。…でも、キミがどうしても食べてほしいって言うならもらってあげる。(他多数の女生徒への対応と違い、いつものように一言も二言も余計な男に彼女が怒ってしまう前にその贈り物を自分の手に収めてしまおう。一度受け取ってしまえばもう己のものだと認識する図々しさで、彼女に特に断りを入れることもなく紙袋の中身を確かめる。オランジェットを閉じ込めたリボンの色を見れば、やはり隠し事が下手だと呆れる反面、こんな細かなところまで己の好みに沿おうとしている彼女がいじらしいとも思えて。)感想、今言ったほうがいい?(彼女の顔を覗き込むようにしては首を傾げて問い、もしもそれに彼女が頷いたなら。換装を解き、制服姿となってから水色のリボンを解いていくだろう。)
菊地原士郎 2022/2/15 22:31 No.44
(あまりに平和ボケをしていたからか、危険区域という物騒な単語が頭から抜け落ちていた。「怖いもん、行かないよっ。」なんて言葉を零しては膝に顎を乗せて彼の方へ視線を向けた。何を言うでもなく、隣の彼を見つめて。)ん〜〜っ、むむむむ……い〜じ〜わ〜る〜!(彼の二の腕付近に額をくっ付けたならぐりぐりと押し付けたなら、ぴたりと彼の傍に寄り添い腕にしがみついて。それだけで暖かくなるかは微妙なところではあるが、気持ち的には満足と言ったところか。久しぶりに感じる彼の温もりは心地好く、猫のようにすりすりとくっついてしまうのは許してもらいたい。)……?誰かさんって……………えっ、わたし!?別にうるさくなんないもん!すごい文句言うけど!文字にしたらうるさくないでしょ?(頭上に疑問符を浮かべ多少の間を挟んだ後、彼の視線はぶれず此方に注がれている。其れが意図することと言えば、頭の足りない女にでもよく分かった。二人きりの空間にしては少しばかり大きな声が響き渡り、否定のする意味はまるで無し。的外れな言葉を紡いでは得意げな表情を浮かべて彼の反応を待って。)そっ、そんなこと言ったかなあ…?おぼえてなーいっ。……しろくんのために作ったんだから、食べてよっ。ばかばかっ。(先日のやりとりを思い出し視線を泳がせては苦しい言い訳で乗り越えようとシラを切り通す作戦。彼が受け取ったその中にもしかしたら本命だって混ざっているかもしれないけれど、幾ら気にしたところで何も変わらない。何だかんだと受け取ってくれた事に安堵しつつ、手持ち無沙汰になった手はスカートを握り締めた。視線は彼へと向けたまま、この上ない緊張が襲う。)えっ、感想!?えっと、ええっと…じゃ、じゃあ今聞く…(まるで試験の合否を待つかのような緊張感に指先が冷えるようだ。制服姿になった彼の姿をまじまじと見つめながら、想いの籠った其れが口へと運ばれる様をただただ見つめるだけ。)
小宮咲稀 2022/2/16 14:41 No.54
ちょっと……はあ、ほんとキミって子供っぽいことするよね。(腕にしがみつく彼女を呆れたように見下ろしながらも、無理に引き剥がそうとはせずにされるがままでいるのは男がそれだけ気を許している証拠だろう。気まぐれにこちらから彼女の方へ重心を傾けてみたら、一体どんな反応が返ってきただろうか。)別にキミのことなんて一言も言ってないけど?……でも、これでうるさくないは無理があるでしょ。ちゃんと会いに来てあげたんだから、あんまり騒がないでよね。(大声を上げる彼女から距離を取るように身を引けば、わざとらしく両手で耳を塞いだ。もしも彼女の声を聞きつけた第三者がやって来ようものなら、この密やかな逢瀬も終わりを迎えてしまうので。男にとってもそれは少し惜しかった。)自分で言ったことも忘れたんだ。ふーん。……あーあ。ぼくのために、ってとこで終わってたらかわいげあったのに。(やれやれとでも言わんばかりに肩を竦める。どの口が、と彼女を怒らせる可能性をわかっていながら、こうして噛みついてくるのをなんとなく楽しんでいる自分もいるのだ。だが、明らかに緊張しているような様子を悟れば、ふむと少し考えたのちに彼女の顔を覗き込んで。)あれ、もしかして自信ない?(その煽るような口振りは、きっと彼女がいつものようにムキになって反論してくるのを待っていた。しゅる、とリボンを解く間に隣からの視線を感じ取れば「あんまりじろじろ見ないでくれる」とじとりと細めた眼差しで一瞥したのち、袋の中から取り出したオランジェットを一口齧る。まるで背伸びをしたようなほろ苦さを舌の上に乗せ、静かに咀嚼したそれを嚥下したのちに。)小宮ってお菓子とか作ったことあるの?って思ってたけど……結構おいしいじゃん。頑張ったんじゃない。(その先入観こそ失礼極まりないものだったが、実際に口にしての感想は男にしては珍しく素直に褒めるものだっただろう。そのまま一口、二口と食べ進め、ぺろりと完食してしまえば「ごちそうさま」と彼女の方を向いて伝えようか。)
菊地原士郎 2022/2/16 23:39 No.60
(子どもっぽい事は十分自覚済みであるが、否定も出来ないのが事実。それを許してくれる彼に甘えながらスキンシップを取る事が出来るのだから少しは許して欲しい。未だ不貞腐れ顔は残るまま、然し彼の見えないのをいい事にひっつき虫のように力を込めるが、ふと此方へ傾いた彼の体の重さを感じる。一方通行ではない気持ちに幸福を感じひっそり目を細めた。)………だ、大丈夫だよね…?(校舎に残る生徒たちの声が微かに聞こえるが此方へ向かってくる足音は聞こえず、ほっと胸を撫で下ろし小さく息を吐き出した。折角のふたりきり時間だ、たったの数分で邪魔が入るだなんて考えたくもない。そんな本音を真っ直ぐ彼に届けられたらどれだけ楽だろうか。「静かにしよ…」なんて呟きはほぼ囁きと似たような声だが、さていつまでもつか。)……っ、だ、だって〜!…………す、好きな人にあげるの、初めてだから……は、恥ずかしいの!もういいっ、どうせ可愛くないもんっ。(隊員達に渡していた女の子たちは各々自分の気持ちを伝えていた。照れ隠しにしても可愛げがないと思われてしまうのは至極当然のことだろう。中には本命だって混ざっていてもおかしくはない。子どものように拗ねた言葉を残して、膝を抱えて小さく蹲った。)せんぱいに教えてもらったんだから美味しいに決まってるでしょ〜!?…ただ、しろくんの好みかは分かんない…(もった分かりやすくリサーチをすれば良かったか、寧ろ直球で聞いた方が早かったかもしれないけれど、彼の事を考えながら作るチョコはなんとも楽しい時間だった。不安げな声を漏らしながらも、「やだ、見る」なんて一言告げて一挙一動見逃すまいと視線を注いでいた。また何か小言を言われるのだろうかと少し身構えるも、それは杞憂に終わる。まあるい目をぱちぱち瞬かせては間の抜けた表情でぽかんと口を開いたまま。)───…ほっ、ほんと…?(心を丸ごと覆っていた不安の靄は一気に晴れ、曇りがちな表情も明るさを取り戻していた。)よかったあ……お菓子はね、ホットケーキなら焼いたことあるよ。今度一緒に焼く?(分かりやすくご機嫌な笑みを浮かべながら、それを隠すこともなく頬は緩んだままで。完食したのだろう彼の言葉が聞こえたなら「お粗末さまでしたっ。」なんてお決まりの返しでも告げよう。)
小宮咲稀 2022/2/18 09:15 No.70
(基本的にこの男のパーソナルスペースは広くできている。だが、普段なかなか素直に甘えられない彼女がこうしてくっついてくるくらいには会う時間を作れていない自覚はあったので。今日くらいは好きにさせてもいいかと、口には出さずとも男なりに彼女を甘やかしていた。)キミがこれ以上うるさくしなかったらね。(すんと涼しい顔で言い放つ男は、彼女が大声を張り上げる原因が己である自覚を持ちながら、あくまで彼女の頑張り次第という口振りで宣った。もしこちらへ向かってくる足音があればこの耳がいち早く拾えるから、特段気を張る様子もない。)それは見ればわか……すぐそうやってへそ曲げる。別にかわいくないとは言ってないでしょ。(はあと溜息を吐き、隣で膝を抱える彼女の方に重心を傾ければ肩同士が軽くぶつかった。それでもお構いなしとばかりに、唇を「3」の形にした男の屁理屈をどう捉えるかは彼女次第だけれど。)甘ったるすぎるとか砂糖と塩間違えたとか、キミがよっぽどの失敗しない限りは大丈夫なんじゃない。(フォロー上手な同輩と違い、嫌味な言い方しかしない男の言葉が彼女の不安を拭えたかはわからないけれど。どれだけ言っても聞かぬと悟れば「わがまま……」と呆れたように溜息を落としながらも、それ以上咎めることはしなかった。己の感想にわかりやすく安堵の表情を浮かべる彼女に「いつもほんとのことしか言わないでしょ」と当然のような顔をして告げたけれど、良くも悪くも正直な男の言葉は信じるに値するだろうか。)ホットケーキってお菓子って言うの…?…じゃあそのうちね。そこまで言うなら小宮先生が上手な焼き方教えてくれるんでしょ。(楽しみだなあ、と棒読みの声でちゃっかりとハードルを上げたのはもちろんわざとだ。ふいに彼女の方へ手を伸ばしたかと思えば、むに、と緩んだ頬を摘んだのは軽い出来心で。そのまま「あ」と何かを思い出したような声を上げる。)そうだ。今日の放課後って何か予定あるの?ぼくは非番なんだけど。(このイベントが終了すれば晴れて自由の身だ。じっと目を見つめながら、問いかけた言葉の意図に彼女は気付くだろうか。)
菊地原士郎 2022/2/19 13:33 No.76
うるさくしないもん。しろくんの耳がよすぎるから大きく聞こえるの。ふつーの声で喋ってたからねっ。(一人むくれなからも小声で囁くように文句をぶつぶつ呟く姿に威厳は皆無と言えるだろう。)だってしろくんがあ………っ、じゃっ、じゃあ可愛いのっ?(なんて自意識過剰な質問だろうと口にしてから気付くには遅く、特別容姿に自身のない身としては少しばかり気恥しさが込み上げ、じわりと頬に熱が集まる。聞こえてくる言葉なんて予想がつくけれど、日常的なじゃれあいとして誤魔化してしまっても良い。)砂糖と塩間違えたりしないもんっ。……ま、また美味しいの作ったら食べてくれるってこと…?(得意というわけではない料理も人並みには出来ると自負しているが、誰かに披露するにはいまいち自信が足りない。彼の言葉を都合よく解釈した結果、目を丸くさせながら僅かな希望を持って問うてみた。彼の性格上遠回しな冗談や嘘を言うような人では無いことは解っているけれど、膨れ面ではなく自然な笑みが零れてしまう程には嬉々としていた。ハッとしたのは数秒もたった頃、自分の頬に両手を当てて「…ほっぺ戻らなくなりそう…」なんて緩みきった頬を抑えながら。)んー、お菓子っていうかおやつ?だよね?…えっ上手な焼き方!?…焼き方……ももももちろん教えてあげますよっ。小宮先生にお任せ〜!(幼い頃はよく食べていたものだが最近はその機会も減っていた。棒読みが少し気になるが彼の言質を取りいつかの約束へと結び付けることが叶えばこの上ない幸福だ。見栄を張って彼の言葉通り先生面をしてみるけれど、不意に頬を摘まれたなら唇を尖らせ子どもじみた表情が垣間見える事だろう。)へ?ううん、なんもないよ?………──あっ。どっか遊びに行くっ?しょーがないなあ、忙しいしろくんのために、今日はどこでも連れてったげる!(数拍の間を置いて彼の言葉の意図を理解したならきらりと瞳を輝かせた。都合のいい解釈ならばお手の物で、面倒な言い回しをするものの要は自分が行きたいだけ。無駄に得意げな表情からは嬉しさが滲んでいる筈。)
小宮咲稀 2022/2/20 17:02 No.81
ふつーの声ね……あ、ちなみに体育館でぼくのこと見てたのもバレバレだから。(とん、と自分の耳を指差しては彼女の反応を窺うように視線を向ける。ふと思い出したように告げた種明かしも全ては彼女の反応見たさのもので、へそを曲げた彼女を見ても悪びれる素振りすらないのだから困りものだ。)自分で聞いといて照れる?…でも、キミがそうやってすぐ顔赤くするとこ見るのは好きだよ。見てて飽きないし。(それは彼女が求めた答えとは違うだろうけど、捻くれ者の男にしては分かりやすく彼女に対する好意を口にした。見ていて飽きないとはからかいでもなく本心であるが、きちんと伝わるかは定かじゃない。なにせ普段の行いがよろしいとは言い難いので。)おいしいのならね。そもそも失敗したやつはぼくに食べさせなさそうじゃん。プライド的に。(男なりに彼女の性格を顧みた読みが当たっているかはさておき、もし彼女がまた心を込めて作ってくれるというなら断る理由もなく。すっかり緩みきった頬を見れば「緩みすぎてそのうち落っこちちゃうんじゃない」と軽口を叩きながら、彼女ほどわかりやすくはないが僅かに目元を和らげる男の姿があった。)店で食べられるようなふわふわのやつね。さすが小宮先生は頼りになるなあ。(自分で首を絞めている彼女へすかさず追い打ちをかけるよう、わざとらしく褒め称えるような言葉を続ける男の表情は小憎たらしくも涼しげなままだ。拗ねた子供のような顔に見上げられたなら「へんな顔」と可笑しそうに呟いて、頬を摘まんでいた手をぱっと離した。)それはこっちの台詞なんだけど……普段はあんまり時間取れないし、たまにはね。小宮のやる気が十分なのは伝わったから、うるさいとこ以外でよろしく。(己の言葉ひとつで嬉しげに目を輝かせるさまを見れば、眩しがるようにすっと目を細めた。もし彼女が行きたいと言えば、たとえ騒がしいところであろうとぶうぶうと唇を尖らせながらも付き合うのは目に見えているけれど。太腿に頬杖をつきながら首を傾げ「どこ連れてってくれるの?」と彼女に行き先を尋ねたのがその証拠だ。)
菊地原士郎 2022/2/21 14:11 No.90
(確かに体育館で彼の姿を見つけてからはじっと嫉妬の眼差しを向けてはいたけれど、耳を指さす行動にハッとし、「……えっ!?聞こえてたの!?」なんて目丸くさせながら驚きを顕にした。耳が良いとは言えあれほどの距離と周囲の騒がしさでも声が届くだなんて、迂闊に変なことは言えないと思った心の声までは聞こえないだろう。然し表情に全てが出てしまうこの女に隠し事は到底出来そうにない。今だってそう、彼の言葉一つで動揺して。)〜〜〜っ、もっ、も〜〜!そんっ、 急にそういうこと言うの禁止〜〜!(求めていたもの以上の言葉の破壊力は底知れず、素っ気なく意地の悪い彼から紡がれた好意に思わず両手で顔を覆った。全てを隠すには難しいが、一先ず心臓を落ち着かせようとそのまま背を向けた。)そっそんなの!当たり前じゃん…美味しいの食べて欲しいもん…下手っぴだって思われたくないしっ。(彼の言う通り失敗の産物を彼に渡すなんて事しないだろう。朝まで掛かったとしてもマシなものを渡したいというのが乙女心だ。見透かされていた事に気恥しさを感じながら小さくぶつぶつと呟いて。「落っこちたらちゃんと拾ってねっ。」なんて彼の柔らかな表情に釣られて笑みを零した。)ふわふわ!?……ま、まあ、わたしにかかれば、ちょちょいのちょいなんだからあ!(精一杯虚勢を張る姿は滑稽に見えるだろう。彼の期待に答えるべく友人やネットの情報をかき集める姿が容易に想像出来る。今日の目的を達成して既に満足感は得られたが、此処で帰ってしまうには物足りない。そんな時の彼の言葉は素直に嬉しさが込み上げる。)えっとえっと、どこがいいかなっ…えっとね、ん〜〜〜と!………あっ、水族館!水族館行こ!わりと静か……でしょっ?(急なリクエストに焦りはしたものの、先日丁度見掛けた広告を思い出し提案すると同時に勢いよく立ち上がる。忙しい彼を連れ回すのも気が引けるが、比較的ゆったりと回れる水族館ならばどうだろうかと彼の反応を待って。)
小宮咲稀 2022/2/22 12:33 No.94
(彼女の驚きようとは対照的に、顔色ひとつ変えずに「人より耳がいいもんで」と宣う男には謙遜する素振りもない。彼女が口に出さずとも、考えていることをなんとなく察せてしまうのは彼女がわかりやすい──だけでなく、それだけこの男が彼女のことを見ている証拠かもしれない。)言われたいのか言われたくないのかどっちなわけ?小宮に合わせてたら日が暮れるでしょ。(禁止と突っぱねられたことが解せないとばかりに唇をぶうぶうと「3」の形に尖らせては、ちいさな背中に物言いたげな視線を送りつつ。)ふーん。その感じだと今回も結構練習したんじゃない?(難解な乙女心を理解できるほどの情緒は生憎と育っておらず、悪気もなく問いかけたのは単純な興味からだ。彼女の笑みを見下ろして「拾ったとこでくっつくの?」と頬をつつく指先に遠慮はない。)…キミってなにかと苦労しそうだよね。(こうなるよう仕向けた張本人のくせ、頑なに白旗を上げることなく意地を張り続ける彼女に呆れたような視線を向けた。ホットケーキづくりに奮闘する姿が今にも目に浮かぶようで「ぼくのほうが上手く作れるかもね」と煽ったのは、手っ取り早く彼女のやる気を出させることのできる手段として。途中で口を挟むことなく彼女の悩むさまを見守っていたけれど、ふいに立ち上がったことで目線の高さがいつもと逆転する。階段に腰を下ろしたまま見上げては、)いいんじゃない、デートっぽくて。じゃあ学校終わったら近くの広場で落ち合う感じで。(あえてデートという単語を用いたのもまた、彼女のいじらしい反応が見られることを期待して。そんな会話の折に「ボーダーの人たち、もうすぐ帰っちゃうらしいよ」と話す女生徒たちの声を階下から拾えば小さく息を吐く。)めんどくさいけどそろそろ戻んないと。(そう切り出す声は淡々としたものだったけれど。制服のポケットからトリガーを取り出すも、トリオン体に換装する前に再び彼女の方を見上げては「ん」と両手を軽く広げてみる。いじわるの称号を賜った男も、甘え下手な彼女の頑張りを無下にするほど薄情ではなかったので。)
菊地原士郎 2022/2/23 02:34 No.102
い、…いいい言われたい、っていうか…なんていうか……心の準備ができてなかったっていうかあ……し、しろくんがそうやって言ってくれるの嬉しすぎて頭がおいつかないの!(煮え切らない態度は上手く言葉が出てこない所為もあるけれど、未だ余韻が残る中気持ちが昂っている所為もあるだろう。細い指先同士を落ち着かない様子でつんつん弄りながら、挙句には隠しようのない本音が混ざるも、まるで文句のように告げて。二度程深呼吸をしたならゆっくりと体を正面に戻し、「……もっかい言って…」なんて図々しい注文をひとつ付けたがさてどうか。)えっ!…………そっ、それは〜…ちょっとだけ、ねっ。ちょっと練習してパパッと出来たからねっ。(何彼に渡したのが回目の成功だったかも忘れてしまったが、そんな格好悪い事実を知られたくない。無駄な意地を張っては直ぐにバレてしまうだろう嘘をついて自慢げに見せた。隣から突かれる頬を少し膨らませて「しろくんがくっつけてね。」なんて口元を弛めながら妙なお願いをしてみるけれど。)…わーん!しろくんのいじわるー!でもちゃんと作れるもん!(自ら首を締めていた事は薄々気付いていたが、見栄っ張りが引っ込められずにいた愚かな性格はまだまだ直りそうもない。呆れた視線からそっと逃げるも彼の言葉にハッとする。「しろくんホットケーキ作れるの?食べたい…」思わず本音が零れながらも期待を込めてじっと彼を見つめて。)デート……………わっ分かった!秒で行くから遅刻しないでね!(たった三つの文字の余韻に浸っては、緩んだ頬は自然とそのままに締りのない顔が露呈していた事だろう。久しぶりの二人の時間、一秒でも無駄に出来まいと意気込む。授業への集中力など切れ身に入らない姿が容易に想像出来るだろう。再び隣に腰を下ろすも、秘密の時間は終わりを告げる。)えっ、もう行っちゃうの…?(思わず出た素直な言葉を撤回することも無く、分かりやすく寂しげに眉尻を下げて見せたのも束の間。両手を広げる彼の姿を見て一瞬で理解出来た。)んむむっ……む、むむ……んん〜〜〜!しろくんっ!(その腕の中に飛び込みたい気持ちとこの上なく恥ずかしい気持ちのせめぎ合い。頬はじわじわと熱を持ち、結果遠慮なく彼に抱きついた。ぐりぐりと額を押し付けながら「……しろくんがおいでって言ったから…」なんて彼を言い訳に使ってしまったが、都合のいい解釈がバレバレだ。)
小宮咲稀 2022/2/23 20:12 No.106
(つい先程までいっぱいいっぱいになっていたかと思えば、もう一度と欲張りな面を見せるところが彼女らしい。だが、それを素直に聞き入れる男ではなく「こういうのは何回も言うもんじゃないでしょ」と素気なくノーを突きつけるあたりが、彼女から要らない怒りを買ってしまう所以だろうか。この男のたちの悪さは、それを分かっていて改善しようとしない図太さである。)へえ、すんなり作れたって言う割に自信なさげだったけど。(じっと物言いたげな眼差しを注ぎながら、彼女の痛いところを的確に突くあたりまるで容赦がない。ぷすり、と風船のように膨らんだ頬を潰すように指先で突けば「変にくっついても泣かないでよ」とその戯れに乗っかったのは気まぐれに。今日だけで何回聞いたかもわからない“いじわる”に反省する様子もなければ、まったくの素人のくせに「実際に作ったことはないけどそんなに難しいもんでもないでしょ」と余裕そうな口振りで宣うあたり、完全に舐めきっている。)はいはい。キミこそ慌てて走ってきて転んだりしないでよね。(その緩み切った顔を見ればありえない話ではないと、まるで子供相手に言い聞かせるような口振りは本気と冗談が半々といったところ。しゅんと寂しげな顔を見せたくせ、すぐには甘えられない不器用さを面倒だと思う反面いじらしくも思うのだ。長い葛藤の末、ようやく腕の中に飛び込んできた彼女を受け止めるも、さほど体格のいい方でもない男はその勢いに負けて背後の壁に軽く頭をぶつけてしまう始末だった。)いたっ、……ちょっと、勢いつけすぎじゃない?猪じゃないんだから。(はあ、と呆れたような溜息が彼女の頭上に落ちる。だが、己を使った言い訳にも今回だけは目を瞑り「ちゃんとわかってんじゃん」と肯定しては、ぽんぽんと彼女の背中をあやすように軽く手のひらを弾ませて。それから重い腰を上げるまで、たった数分にも満たない触れ合いではあったけれど。今度こそトリオン体に換装し直し、彼女の方を振り返っては片手を軽く持ち上げて。)じゃ。また後で。(それだけ告げ、とんとんと振り返ることもなく階段を降りていけば文句のひとつでも聞こえてきそうなものだが、それで彼女の寂しさが紛れるのなら甘んじて受け入れたっていい。放課後の逢瀬のはじまりは騒がしいものとなるかもしれないが、それも悪くないと感じるほどの心情の変化をこの男に齎したのは、他でもない彼女だった。)
菊地原士郎〆 2022/2/24 22:31 No.113
えっとね、ほら…そのー…………〜〜っ、もうっ、分かってるでしょお!?(図星故にぐさぐさと刺さる彼の言葉に意地を張るのも限界に達し、理不尽に文句をつけるのはただの我儘だろう。何気ないスキンシップもむくれ顔ではありながら満更ではなく、にやけてしまう頬を引き締めるのに必死だ。「泣かないもん!怒るの!」なんて屁理屈を返しながら、他愛のないやり取りがこんなにも心地よい事を実感する。「じゃあホットケーキどっちが上手に焼けるか勝負ね!」と自信満々と言った表情で勝負を持ち掛ける表情は楽しげ。実際負けることがあれば面倒くさく拗ねる未来が容易に想像出来るけれど。)わたしそんなドジっ子じゃないもーん。……ドジっ子の方が可愛かったり…する…?(わざとドジを踏むつもりはないけれど、其れが彼に響くならば吝かではなく、また奇妙な問いを彼に投げかけるのだ。至近距離でもあった為か、それこそ猪のような勢いだったからか、鈍い音がら聞こえたなら申し訳なさそうな表情が浮かぶ。)ごっ、ごめんなさいっ……大丈夫?たんこぶできた?(じわり涙を浮かべながら心配そうに後頭部へ視線を向けて。手が届くならば撫でてあげたいところだが、其れはどうにも無理そうだ。彼の優しさに甘えながら、その暖かな優しさに自然と頬が緩むけれど、彼からは見えぬのをいい事ににやけた顔を彼の胸に押し付けた。離れがたくも感じるが、また直ぐに逢えるのだと思うとそう寂しくもない。)…うん、あとでねっ。あ、あのねっ………あ、ありがと!(さっさと階段を降りていく彼の背に向けてに告げた言葉はちゃんと届いてくれただろうか。そのままこの場で余韻に浸るのも良いけれど、こっそりと距離を取りながら昇降口まで着いて行った事実も彼の耳があればお見通しだろうか。そんな事を知らぬまま、ご機嫌な様子で放課後を迎えたなら何時もの三倍ほどの速さで待ち合わせ場所へ向かった。何方が先かは分からないが、彼の姿を見つけた瞬間花咲くような笑顔が零れる事だろう。)
小宮咲稀〆 2022/2/25 12:45 No.118