Wonderful
Chance

mission

 
ペア 2022/2/13 16:51 No.7
(ねえ知ってる?――そんな常套句が囁かれたのは、2月に入って間もない日の朝、教室に入り挨拶を交わしたすぐ後のこと。知らされたのは、生徒会主催のイベントに纏わる噂についてであった。それは早くも学院中を駆け巡っているらしく、よく見ればあちこちで、浮き足立った声がバレンタインの話題を取り上げている。無論耳打ちされた古澤も瞬く間にその内の一人と化すのだけれど。「ほんとに?」「直接渡せるの!?」なんて一際興奮した様子を見せたなら、友人らとそのまま誰が受け取りに来るのか、どんなチョコを用意したものかとはしゃいだ声をあげようか。隣の席や前後の席の女生徒が登校してくれば今度は古澤が言伝を広めて、ホームルームが始まるその直前まで教室は甘い話題一色に染まっていただろう。そうして一限目が終わってすぐ。待ちきれなくて、LINEのトーク画面、一番上に表示されているその人の名前をタップした。逸る気持ちのまま、今までの会話をオールスルーして「ね!!澄晴先輩も星女来る!?」なんて一文を送りつける。唐突な話題転換は日常茶飯事だ。だからいつもの調子でいくつかやり取りを重ねて、第一声の意図するところを解き明かしたなら。)先輩が来てくれるんなら私もチョコ用意しますよ!すっごいの!(なんて宣言と、気合十分なキメ顔をした白熊スタンプをぽんっと投下しただろう。)う、わぁ~……予想はしてたけど、すごいな~……!(瞬く間に迎えたバレンタインイベント当日。予想を上回る賑わいを前に、思わず遠く見渡すように額に手を当てては入り口の影からぐるりと館内を見渡した。いつもは底冷えするくらい冷え込みの強い体育館に満ちた熱気といったら、いかに日頃考え無しに猛進しがちな古澤と言えども歩を進めるのを躊躇うレベル。しかも、共に来たクラスメイトらは秘めた想いを伝えるべく早々に目当てのボーダー隊員の元へ向かい、今は一人。手にした紙袋を隠すように背中に回すも、いつまでも怖気づいてはいられない。モテる彼氏のことだから、きっと可愛い女の子たちに囲まれているに違いないと思えば柄じゃない焦燥が込み上げてくる。)……よしっ、行こう!(まずは一際分厚い人だかりが出来ている箇所を探そうと、あちこち忙しなく視線を投げながら。大切な思いを伝えるための第一歩を踏み出すのだ。)
古澤歩佳 2022/2/14 00:33 No.10
――それ、おれが行きますよ。二宮さんは忙しいでしょうし、辻ちゃんは行けないでしょ。ならおれが適任じゃないですか。(件の企画が進行中との話は、己が所属する隊の隊長より作戦室にて齎された。聞き馴染みのある女学院の、それも高等部。外面だけは確りと、聞き分けの良い隊員の顔をして。その内抱く目的が何処にあるのかなんて、億尾にも出さぬまま。)ま、抽選に当たったらの話ですけど。二宮さんの分も辻ちゃんの分も、おれがしっかり受け取ってくるんで安心してください。ひゃみちゃんに渡したいって子も居るかもね?(笑いながら付け加えた言葉がこの話題の締めとなり、以降はまた別の話題へと移っていったことは未だ記憶に新しい。最終的にどのようにして参加者が決定したのかは知らぬけれど、隊長により当日の流れを伝え聞く形で参加を知ったのだから、それはそれで。気が付けば進んでいた話が公のものとなったのか、届いたLINEへ目を通した際に零れたのは思わずといった笑い声だ。メッセージの第一声から、彼女の声でいとも容易く再生されて。その言葉が示す企画が何であるか尋ねるまでもなかったからこそ、「行くよ」との簡潔な返答と、「それは期待しちゃうな。すっごく期待してる」――大切なことなので彼女の表現を借りつつ言葉を重ねて、そうして当日を迎えるに至るのだ。普段は足を向ける機会がない彼女の所属する高校は、ここだって己にとっては立派に護るべき場所の一つであり。案内された体育館にて定刻が過ぎたのならば、後は予想通りの展開となるだろう。二宮隊の一員として、外面だけは隊の名に恥じぬ振る舞いとなるように。隊長宛のもの、後輩宛のもの、それからオペレーター宛のもの。それらもしっかり笑顔で受け取りつつ、時折挟み込まれる己宛のものだって、変わらぬ笑顔で受け取っていれば。)……お。(悪くない視力が捉えた姿に、蒼の双眸を細めよう。その人が何処に向かって行くかは考えるまでもない。ただこの場を動くことなく、訪れを待ち侘びて。)
犬飼澄晴 2022/2/14 03:22 No.12
(脈絡なく投げた言葉に期待通りの返答が返って来れば、だらしなく緩んだ顔を隠すみたいに机に突っ伏し脚をばたつかせた。何かと忙しいボーダー隊員たち、中でも屈指の実力派である二宮隊に属する彼と過ごせる時間は元よりそう多くはなくて。良き友人の立ち位置から一歩内へと踏み込んで以来初めて迎えるバレンタインだって、チョコを渡すどころか会えるかどうかも定かではなかったものだから、いっそ本部へ送りつけようかとすら考えていた矢先の吉報に、重ねて綴られた期待。これでにやけずにいられるほど、彼に抱いた恋は淡くない。欲を言えば誰の目も気にすることなく2人きりの状態で渡したかったものだけど、会えるだけでもラッキーだ。少女たちの合間を縫って進む最中、夏の空みたいに深く鮮やかなその色を見つけては光が弾けたみたいに明るい笑みを綻ばせ、)すっ  〜〜っっ!(つい呼びかけたその名をギリギリのところで飲み込んだ。周りにはまだ目的を果たせていないらしい女生徒が数名。今すぐ駆け寄りたい衝動をスカートの端を握り込むことで誤魔化しながら、大人しく自分の順番が来るのを待つように彼女らの斜め後ろに立つ。「二宮隊長に渡してください」と告げて一人去り。「辻くんへ」と告げて二人去る。そうして残った最後の一人は、可憐に頬を赤らめながら震える唇でこう言った。「これ、犬飼くんに……!ずっと、憧れてて」 思わず一歩後ずさった。スカートの皺が深くなる。)………。(わなわなと震える口元がぱくぱくと間抜けな調子で空気を食む。決死の思いでチョコを差し出す少女はきっと、その背後で慌てふためく存在に気付いてないのだろう。)ど、(まさか自分が彼女だと飛び出すわけにもいかなくて。両手で宙を捏ねながら、動揺に揺れる瞳が声なく叫ぶ。どうするの!?これって絶対本命だよね!?――そう目で訴えながらもきゅっと尖らせた唇と、それを隠すみたく交差させた両手を口元に掲げたのは、秘密の恋人としてできる精いっぱいのやきもちの現れ。)
古澤歩佳 2022/2/14 20:13 No.24
(己に宛てられたものも少なからず、それでも多くは頼れる隊長宛てのものとなるだろうとは、名乗り出た当初よりわかっていたことでもあって。勿論後輩二人に充てられたものもきっちり受け取って、混ざらぬようにと仕舞いこむ段ボールの中身は整えられたものだろう。最終的にはボーダー本部へスタッフの手によって送り届けられることとなるとは思いつつ、間接的でも隊員に手渡せることに意味があるとは、まあ想像に容易いことだから。――だからこそ、囲う女生徒達への対応も当たり障りない。一人目。「二宮さんね、了解。何か伝えておく?」尋ねる声は流れるように軽い音だ。形のあるものを渡すだけでなく、そこに込めた想いがあるというのであれば伝書鳩の役割だって甘んじて。二人目。「可愛い子からだよって伝えたら、辻ちゃん緊張しちゃうかも」後輩の姿を思い浮かべて小さく笑い、礼の言葉は後輩の代わりに。そして残る最後の一人の言葉に、)え、おれに?嬉しいな、ありがとう。(にこり。綺麗に浮かべた笑みは完璧なまでの外面の良さと、それ以上を追及させない圧を相手に与えるに違いない。淡い憧れは有難く受け取ることとはするけれど、だからといって同等の想いが返されるなんてこと、この少女とて思いもしていないだろう。仮に夢物語を描いていたとするのなら、とんだ笑い種だけれど。――それよりも、既に意識は目の前の少女の後ろ。こちらへ向かって何かを訴え続ける相手へ向けられているなんて、熱に浮かされた相手に気付かれずにいればいい。一人ずつに掛けられる時間に制限があるわけではないけれど、自らが“その他大勢”の括りに居ると察した少女達は賢いものだ。続く遣り取りがないと気が付けばその身体を視線の射線上から横へと逸らしてくれて、)――きみは誰宛?(漸くの対面を果たした目的の相手を前にして、愉快そうに細められた蒼を咎める者は居ないだろう。言葉だけを拾い上げれば何てことない、一隊員から一女生徒への問い掛けに過ぎず。その実、問い掛けなど不要な関係に在るということなど、この場に於いては視線交わらせた二人以外に知りはしないのだから。)
犬飼澄晴 2022/2/14 23:44 No.28
(一人一人腰を据えてじっくり、とまではいかずとも。適切な切り返しで対応していく彼に純粋な尊敬を覚えながらも、最後の一人を見守る際の顔色は僅かばかりに青ざめていたか。こんな場面は今日まで何百回とシミュレーションしてきたとはいえ、やはり目の当たりにすれば胸が痛い。しなやかな指先が綺麗に包装された思いを受け取る様を見守りながら、未だ背に回したままの紙袋を持つ手に力を込めた。ちっぽけなやきもちはけれど、“二宮隊のガンナー”として振り撒いていたそれでなく“大好きな澄晴先輩”が注いでくれる眼差し一つであっという間に吹き飛んで。)えっ、えっと、まず二宮隊の皆さんに!!(誰宛かなんて、型式ばかりと知るのはふたりだけ。周りに不審に思われないよう慌てて手にした紙袋を胸元に抱き寄せ中身を取り出しながらも、身を引いた少女が視界から外れ、やがてその気配も体育館に満ちた喧騒に紛れていくのを肌で感じ取る。)焼き菓子の詰め合わせなん、  っですけど、みなさんでどうぞ!ふわふわのカスタードケーキも入ってるし、クッキーは甘くないのもあるから、二宮さんも口にしやすいかなって。  で、これはひゃみちゃんさんに……ギモーブです。チョコベリーと、ブルーベリーヨーグルト!気に入ってもらえたらいいなぁ〜。(まず取り出したのは四角形でシンプルなグレージュの缶。銀色の細いリボンがかけられた小ぶりなそれはお茶菓子につまむにはちょうどいいだろうと。中身を解説する傍らで次に取り出したのは長方形のクリアボックスで、中には紫と白、ピンクとブラウンのそれぞれ二層になったスイーツが収まっていた。高揚した調子で語るほど他人のふりはボロを出していくけれど、日頃から誰に対しても馴れ馴れしい態度を取っていたからいつものことと言えばそれまでで。)あと、その、………今日はこっちがメインで………。(最後、そのまま彼へと差し出した紙袋の中には薄水色の箱と、若草色の小箱。市販と手作り、結局選べずに両方を選んだ結果だった。先の勢いが嘘のように小さな声が宛先を告げる。)いつも街を守ってくれてるお礼、犬飼さんへ。それともう一つは、………………。(噤んだ唇がもにょりと震え、やがて  澄晴先輩へ。 声なく紡いではすぐに俯き視線を逸らした。耳まで真っ赤に染め上げていては隠しても意味ないだろうと知りながら。)
古澤歩佳 2022/2/15 14:11 No.38
(言ってしまえば、彼女以外は誰であれ同じこと。他者との距離が近かろうとも、開いた心を明け渡す相手等家族を除けば一握り。その中に収まった一人を前にしてしまえば、知らず表情取り繕うことなど忘れてしまうのは当然だ。寧ろ、彼女だけに見せるそれとなってしまっていたって仕方がないと思えるくらいには。)へえ!ありがと、皆喜ぶんじゃないかな。特にひゃみちゃん。美味しい紅茶かコーヒーか、好きなもの用意して待っててって伝えておくよ。(一つだけではないそれらを前にして、綻ぶ表情はかのぞの差し出すそれらが己の属する隊についてを考えてくれてのものだと知っているからだ。事前にそれぞれの好みをリサーチしていたことも知っているし、その上で考えてくれたのだということも知っている。バレンタインという場を利用して、自らの気持ちを相手に伝えるだけではなく。感謝の思いだとか、そうした温かさ孕んだ純粋な気持ちが嬉しかった。こと己の隊に向けられているのだから、尚のこと。――まあ、メインはこれからのようだけれど。愉快そうに細められた瞳は変わらず彼女へ向けられたまま、次なる言葉を待っていて。差し出された紙袋を受け取る手は、今までの誰に対してよりも丁寧だ。壊れものを受け取るみたいに。)何処かで見たことあるような色だね。……ふは、いつも頑張ってる甲斐があったかも。流石にここでお願いするのは、明日からに影響が出ちゃうかな。(その唇から己の名を、しっかりと紡いでほしいなんて。二人きりであればいくらでも希うことの叶うそれは、公衆の面前に於いては残念ながら果たされることがなく。特にここは、彼女が日々を過ごす学院の一施設だ。誰が聞いているかもわからない中で、二人の関係を仄めかすことはあってはならないだろうとわかっていつつも、)お嬢さん、これからの予定は?――おれはね、チョコを受け取り終わったら、あとは非番の予定。(そんな言葉を密やかに、少し詰めた距離の中で彼女だけに囁こう。真っ赤に熟れた可愛らしい表情が、他の誰の瞳にも捉えられないように。)
犬飼澄晴 2022/2/15 22:51 No.47
(出会った当初はそれこそ先の少女のように、当たり障りのない、他所行きの笑顔で適当にあしらわれてばかりだったような気がする。けれどそんなのお構いなしに、引かれた線を幾度となく飛び越えてきた結果が今。見上げた先に淡い綻びを見つけては、こちらもへらりと腑抜けた笑みを浮かべてみせよう。彼が信頼し心を許しているその人たちへは、日頃の平穏を。目の前の彼を。守り支えてくれていることへの感謝とこれからもどうかよろしくとの親愛を込めた。ゆえに「喜ぶんじゃないかな」との一言に思わず小さくガッツポーズを決め、来年は直接渡せたらいいなぁ、なんて望みも一つ。けれどはしゃげていたのもここまで。緊張の面持ちで紙袋が彼の手に渡る様をじっと見つめていよう。丁寧な手つき。決して他の女生徒をぞんざいに扱っていた訳ではないのに、一際大切に扱ってくれているのが伝わるそれに、また少し頬が鮮やかに染まる。)へへっ。私、その色が大好きなの(想いを包んだ二色に触れられたなら誇らしげに笑おうか。ふと見上げた瞬間や何気なく視線が交わった刹那。差し込む光加減で揺らめくその瞳の色は晴れた空のようで、あるいは木漏れ日に透ける枝葉のようで。「綺麗だよね」とはにかむ。)そう言ってもらえると嬉しい!けど 影響、出たら困るのそっちでしょ〜……!私は別に、……もうばれてそーだし……(火照った頬を両手で包み込みながら眉尻を下げ。あくまで小声のまま「私がこうなるの、誰かさんのせいでしかないもん」と呟いた。アイドルや芸能人に熱を上げたこともなく、ただ恋人の話題となれば動揺を隠しきれなくなる自分が目の前にしただけでこの現状。見る人が見れば一発だ。)えっ(ふと縮まった距離。意識して絞られただろう声音が降り注げば、つい勢いで身を乗り出すように顔を寄せた。きらりと瞳の奥で光が散る。とはいえすぐ我に返って周囲を見渡すのだけれど、よく見れば残っている生徒もだいぶ少ない。イベント終了は間近で目的を果たした者から去っていった為だろう。 そうとわかれば。「この後は、」言いながら、慎重に、何度か周囲を見渡して。問題ないと判断すれば彼の服の裾をきゅっと掴む。)先輩のこと、独り占めしたい。(やや早口に、彼だけ聞こえるような小声で。言い終えるなり縋る手を離せば、未だ熱引かぬ双眸が答えを待ち侘びる。)
古澤歩佳 2022/2/16 22:42 No.59
(眩しい少女だった。初めて目にしたその時から、周囲に溶け込むことなく、寧ろ照らし出すような明るい存在だと。己が打算的に為している人付き合いを、意図的でなく自然体で為す少女だと感じたのが、きっと全ての始まりだ。気が付けば目で追うようになり、彼女の双眸がこちらの視線と絡むようになり。そうして今に至るまでの過程を、奇跡と呼べば人は笑うかもしれないけれど。たった一人の少女が己という存在に対して、想いを寄せてくれているということを奇跡と呼ばずして何と呼ぶのか。手渡された色を好むという理由だって、自惚れでなければ答えは一つに違いないからこそ。)おれも好きだよ、この色。(何せ彼女が好きと言う色だ。気に入らない筈がないと、見遣る瞳は愛おしげに細められる。確かに彼女の態度を見る限り、聡い者には易々と気付かれてしまいそうな己との関係性ではあるけれど。こちらがそうと認めない限りは、いつまでもグレーと言い張ることの出来る関係であることも、また確かなはずなので。)まあそりゃね。彼女が出来てから個人ランクが落ちましたとか、ランク戦に集中出来ませんとかだったら二宮さんにも怒られるかもしれないけどさ。今んとこ、特に支障は無いわけじゃん?(要するに公言したところで、していない現状と変わるところが果たしてあるのだろうかと。秘密の関係はそれ自体がスパイスと成り得るし、秘密の共有とは甘美な響きにも聞こえるが。それ以上に、彼女に寄り付く悪い虫が居るとするのなら、それを取り払うのもまた己の役目だと思うからこそ。直ぐではなくとも、少しずつ――この関係が周囲に知られるものとなれば良いとは、己のエゴに過ぎないか。)……よく出来ました。(裾を掴む慎ましやかな指先すらも愛おしい。綻ぶ口から落としたささめきもまた彼女の為だけに、彼女が己へ求めることがあるのなら、それを叶えてこそ恋人だろう。「何処かで待ち合わせる?」尋ねつつ距離は開いて、あたかも他愛もない雑談をしているかのような顔をして。そのまま彼女と約束を交わしたのなら、あとは残された役割を終えることだけに努めよう。残り時間はそう長くない、終わりまでを数えている内にあっという間に時も過ぎるだろうから。)
犬飼澄晴 2022/2/18 00:00 No.67
(おれも、と同意を示す言葉が優しく響く。細められた瞳には先程までの揶揄だけではない甘やかな色が溶かされていて、それだけで好ましく思う理由が正しく見抜かれたと察するには十分。「そ、そっか、……それは良かったけど、なんか照れるね」言葉尻には誤魔化すような笑い声をくっつけて。頬の熱を写し取った両手を前で組んでは、その指先を握ったり開いたりを繰り返す。彼の言葉にはぱちくりと目を丸めた。なるほど確かに、恋人へ昇格する以前と今とで支障が出ている点を挙げるなら、そのほとんどが隠し事を苦手とする古澤の日常に関係するもの。彼のボーダーとしての活動に影響が出たなんて、こうして例え話としてみても想像しづらい。)……じゃあ、そのうち堂々と紹介してもいい?(彼の隣は予約済みであるのだと。そうすれば今日のように、いざという時にただ後ろからはらはら見守るしかできないなんてこと、なくなるだろうから。それなりに勇気を出しての発言はしっかり彼に届いたようで、チョコレートみたく甘い声が耳朶を撫でる。その声も、言葉も、周りの誰も二人の関係性を知らないからこそで。思わず飛びつきたい衝動を、ブラックコーヒーを飲み干した時みたいなしかめ面をすることでいなして。「星女の子はあんまり行かない公園があるから、そこで!」と近場で候補を上げたなら、贈り物は両方その時まで開けないでとも言い添えた。彼がどんな顔をするのか知りたかったから。)まーだーかーな〜…………あっ!(イベントが正式に終了するよりも少し前。待ち合わせの約束が成立するなり、一足お先にと体育館を去ったなら手早く帰り支度を整えて学舎を後にした。通学路より2本ほど路地を入ったなら、公園というにはかなり寂れた空き地が見えてくるだろう。放課後というのに人影はたった一つだけ、秘密の逢瀬にはうってつけのそこはせいぜいブランコと滑り台、鉄棒が設置されている程度。「着いた!」と位置情報を送るついで、ブランコに乗りながらの自撮りも一枚添えたなら、その人が来るのを待ち侘びて。)澄晴先輩っ!(そしてようやく彼の姿を見つけたなら、ぱあっと顔いっぱいに笑みを浮かべて忠犬よろしく駆け寄ろう。勢い余って伸ばした両手、うまく捕まえられるかは彼次第、避けられたって構わずに。)〜〜〜っ、やっとちゃんと会えたぁ〜……!
古澤歩佳 2022/2/18 20:03 No.75
(明るい太陽のように笑う少女が、己の前だけで見せる表情が一等好ましいいと思うようになったのは何時だったか。どちらが先にそうした表情を互いの前だけで晒すようになったのかは、互いに一言あるだろうから割愛するけれど。互いに重なる領域が少ないからこそ成り立っている秘密の関係は、ふとした均衡の崩れによって容易に瓦解することとなるだろうとも。それこそ素直な彼女の様を見る者が見れば一目瞭然だろうから。)そのうちっていつ?(意地悪げな色を宿した問い掛けは、当然ながら”直ぐ”との答えを求めていないことは彼女にとて察し得ることだろう。単に肯定を返したというだけの話だ。今直ぐでなくとも、これからも変わらず彼女の隣には己が立っているだろうことに変わりはないのだから。ならば”そのうち”、堂々と。顰め面に噴き出したのだって仕方がない。表情豊かな彼女の反応に、こちらこそ一喜一憂させられているのだ。「了解、」普段隊長より為される指令に対する返答と同じ音ながら、響きはそれよりも格段に甘く落ちたに違いない。去り行く背中を見送ってから、あとは残りの仕事を粛々とこなすことに集中しよう。然程時間を要せずに、渡されたチョコレートはしっかり隊員毎に仕分けをして。段ボールへ入れられたそれらはスタッフの手によってボーダー本部へと送られるだろうから、「お願いしまーす」と軽い言葉で見送るのだ。そうしていれば手元に残ったのは二つのチョコレートのみとなる。ポケットから取り出したスマートフォンに届いた通知を開いたのなら、彼女の声そのままで再生される言葉へ目を通し、位置情報を確認して。それから添えられた自撮りに視線和らげよう。とはいえこの後公園にて待ち受けるのが本物であると知っている以上、写真へと浮気をする時間は短いものであったけれど。)――お待たせ。(辿り着いた公園で、視線を彷徨わせるまでもなく目的の相手を捉えることは容易なものだ。駆け寄ってきた身体をこちらもまた両腕で出迎えて、片手に纏めた紙袋が被害に遭わないようにだけ気を付けよう。)普段なかなか会えない分、こういう機会は大切にしないとね。……このまま此処で開けていい?これ。それとも何処か行く?(これ以降は彼女だけの己であるものだから、どんな形であれ独り占めとなるだろうと。片手で示した紙袋は、彼女の指示通りに未だ開かれぬまま。)
犬飼澄晴 2022/2/20 17:14 No.83
……!! か、考えとく!(想像以上の前向きな返答に、嬉しさだとか照れ臭さだとか、言葉にしきれない暖かな気持ちがつま先から頭のてっぺんまで駆け抜けていく。意地の悪い切り返しには悔しがりながらも白旗を上げることがほとんどだけど、今日の所は情けなく赤らんだにやけ面を晒す羽目になるだろうか。それがただの揶揄ではなく、二人のこれからを信じているが故の言葉だと理解できたから。何もかもダダ漏れになりつつも必死に利かせた我慢を笑われたなら「笑わないでよぉ」と拗ねた調子で零し。二人だけの約束が甘ったるい音で結ばれた瞬間には満足気に唇が弧を描く。秘密の関係故に満たされる独占欲だとか優越感があるのは確か。けれどそれ以上に、こういう瞬間込み上げる恋情を素直に紡げないのがもどかしい。ゆえに「寄り道せずにまっすぐ来てね」と我儘を重ねて、少しでも早く会えるよう待ち合わせには近場を。周囲の視線という制約が無くなれば我慢は限界を迎え、その胸へ飛び込んだのだ。避けられることなく受け止めてもらえたなら、甘えるように紅潮した頬をすり寄せ頷き。)もし逆の立場なら私も全力で立候補したもん。だから嬉しい!……ここで開けてほしいかな。先輩に喜んで貰えるか、実は今もすごい緊張してて……! ほんとは渡し方も色々考えてたんだよ、右左どっちがいい?って選択制にしてみよーかな、とか。でも先輩の顔見たら嬉しくなって色々吹っ飛んじゃった〜(言いながら身を離せば先程まで自分がいたブランコを指差し「座る?」と首を傾げて。)ちなみに一つは見た目も味も100点のやつ。もう一つは世界に一つだけの先輩しか食べられないレアチョコです!(水色の包みの中身は催事場で見つけたとあるブランド発のチョコ。白地のフタ箱にはハート型の地球と、それをぐるりと周り飛ぶ飛行機の絵が描かれている、約束された美味しさの逸品。もう一つの包みには小ぶりなカップケーキが四つと『お守り』が同封されている。ココア生地と生チョコクリームをベースにナッツやカラースプレー、飛行機形の立体的なチョコレートが飾られたそれら。彼が好むと聞いたそのモチーフも手作りなのだが、)こういうの初めて作ったから味は大目に見てくれると嬉しい、かな(不慣れゆえの不格好さを自覚しているため羞恥に一度視線を逸らす。けれど、すぐに伺うようにして彼を上目に見遣るだろう。お気に召してもらえるだろうかと。)
古澤歩佳 2022/2/20 22:55 No.85
(さて、果たして“二宮隊の犬飼隊員に彼女が居るらしい”との噂がボーダー本部だけでなく、星輪女学院内にまで広がるのはいつのこととなるだろうか。そう遠くない未来であることは明らかで、それを耳に入れた際の周囲の反応が気になるところではあるけれど。活動に支障がなければ何も言わぬだろう隊長に、後の二人も祝いの言葉くらいは寄越してくれそうなものの、深くは追及してこないだろうとの展望もあり。要するに、犬飼の日常に何ら変化は訪れない。あるとするならば、人目を憚らずに恋人の名を呼ぶことが出来るようになるという、プラスの変化くらいであるはずだから。――残念ながらまだ人目を忍んでいる為に、公園での逢瀬と相成るのだけれど。)言ったでしょ、“おれの為に悩んでくれてるだけで嬉しいよ”って。実際に貰えたのはもっと嬉しいけどね。どっちがいいかって聞かれてたらちゃんと選んだとは思うけど、残ったもう一つは誰のものになるのか気にしてたかな。(それこそ彼女のものとなるのか、はたまた彼女の家族のものとなるのか。己以外の異性のものになる可能性など露にも思わないのは当然ながら。離れた身体が指差す方へと視線を遣れば、首を縦に一つ。)いいね、どっちも大当たりだ。どっちから食べようか迷うな~、これ。(味も見た目も満点を叩き出すそれと、世界でたった一つだけのそれと。どちらも己のことを想って彼女が用意をしてくれたと知っているからこそ、どちらから手を出すべきかは暫しの思案を。ブランコへと腰を落ち着けて、袋の中から取り出したのは前者が先だった。包装紙を解く指先は丁寧に、解いた後は綺麗に折り畳んで紙袋の中へ。ハート形の選定は彼女らしいと小さく笑って、飛行機が描かれているのは己の好みに合わせたものだろうとわかるから。「こっちは後で一緒に食べようか」と、蓋を開いて中のチョコレートを確認しながら声を掛けよう。その口振りからも伝わる筈だ。“レアチョコ”に関しては、誰とも共有する気がないってこと。たとえ送り手である彼女に関しても、だ。)初めてなのに作ろうって思ってくれた気持ちも嬉しいよ。それに、このお守りも。(もう一つの紙袋の中身はより丁寧に扱われることとするのは仕方がない。カップケーキの数はまるで隊員で分ける為の数に思えなくもないけれど、それは思い浮かべど自らの中で直ぐ様却下としておこう。「ご利益ありそう」とお守りを手に取って、)
犬飼澄晴 2022/2/22 02:10 No.93
(些細なやり取りの中でも綴られたその一言は、文字から想起したよりもうんと優しく甘やかな声で紡がれたものだから自然眦が綻んだ。人当たりの良い彼の選ぶ言葉はいつだって柔らかいけれど、己へ宛てたものはその比じゃないから嬉しくて幸せで、とびきりくすぐったい。)あはっ、それも面白かったかも!「内緒」とか言ったら先輩もちょっとは動揺してくれたり?(実現し得なかったifの可能性を弾んだ声音で広げてみつつ「残ったのが手作りの方だったら、自分で食べちゃっただろうな〜」と、家族も友人も思い浮かべることなく言い切った。好みに合わせたいとの一心でレシピを調べ漁るのも、その笑顔を想ってキッチンに立つのも、勿論こうして勢い任せに飛びつくのだって相手が彼だからに他ならないので。了承を得ると共に、込めた心ごと「大当たり」と称されたなら嬉しそうに目を細め、スキップでもしそうな足取りで遊具へ向かう。定員二人のブランコを占領したなら、隣の彼の一挙一動を瞬きすら惜しみながら見守って。まず一つ目。その相貌を笑みが彩れば此方も安堵したかのような吐息を漏らす。告げられた提案には嬉しそうに頷きながらも「そっちも厳しかったら私食べるから、」と保険を重ねるのは忘れない。試作と味見を繰り返して作り上げた品とはいえ、好きな人にあげるとなればどうしたって不安は付き纏うものだから。)うっ、……でも、ご利益無い方がいいかもしれない……。(なぜなら中身は極々普通の胃薬なので。出番は無いに限ると真面目な様子で語るも、次の瞬間にはころりといつもの笑みを浮かべるのだ。)ねっ、ちゃんとしたお守り、今度見に行こうよ。澄晴先輩がこれからも怪我なく元気でいられますようにーって!あとね、(次のデート案にしては些か可愛げに欠けるかもしれないが、彼の所属を思えばのこと。言い終えると共にブランコの鎖が音を立てたなら、少女は彼の隣からその正面へと移りしゃがみ込む。)星女でボーダーとしての先輩に会えたのも新鮮で楽しかったけど、やっぱりいつもの澄晴先輩が一番好きだなぁって思った!(茶化した調子で、自身の膝を抱え込むようにしながら。ふにゃりと蕩けた笑みにて見上げるは、世界で一番大好きな蒼。)初めて用意したバレンタインチョコが澄晴先輩のためでよかった。 来年はもっと腕磨いて、誰が見てても関係無く堂々と渡しに行くから。楽しみにしててね!
古澤歩佳 2022/2/22 21:55 No.96
動揺はしたかもね。でも、残念ながらおれの彼女は、おれに秘密を隠し通せるような子じゃないから――ね?(あくまでももしもの話を少しばかり広げながら、「それは勿体なくない?」と首を傾いでみたり。訪れることのない仮定の話だと知っているからこそ、語る口調は軽いものだ。中身を確認したチョコレートは市販のものも、手作りのものも、しっかりと有難くいただくこととしよう。重ねられた保険にだって、返すのは笑い声くらいだ。「大丈夫でしょ」は彼女に対しての信頼もあるけれど、何より彼女が己の為に手作りをしてくれたという、そのことが念頭にあるもので。)あっはは!お守りってそういうこと?(中身を彼女から聞き及べば、なるほど確かに出番はない方が良いかもしれないと納得して。一頻り笑えば呼吸を落ち着けて、)じゃあ次は、ちゃんとしたお守りを選んで貰おうかな。今後こそ、ご利益ありそうなやつで。(毎回の任務の際には当然、怪我には気を付けているし――トリオン体の際には身体の使い方が別となるから、それは置いておくこととして。それでもこれから先、どのような任務が与えられるかは幹部でもない一隊員には考えも及ばないことが多いだろう。己はただしっかりと、隊長の命令を忠実に熟すまでだと決めてもいるので。だからこそ、彼女の想いの込められたお守りが手元にあれば、それは充分に効力がありそうだと思うのだ。次に彼女と出掛ける予定としての、口実にも成り得ることも当然含んでいる。)おれも普段とは違う姿が見られて良かったと思ってるよ。他人の振りしようとしてるの、可愛かったしね。(低い位置から見上げる視線に対しては、甘やかに笑んで答えを紡ごう。二人きりの時には見ることが叶わないであろう彼女の様は、まるで単なる知り合いだった頃ともまた違った態度だったから。)来年にも勿論期待してるけど、その前に忘れてない?来月、おれが頑張る番ってこと。(バレンタインデーの後。待ち受けているのはホワイトデーで、今度は己が彼女に返す番となる。「リクエストがあれば聞いておくよ」と笑いながら尋ねはするけれど、彼女のリクエストに応えるだけに留まらぬことは、きっと来月の彼女が直接身をもって知ることとなるに違いない。)
犬飼澄晴 2022/2/23 20:04 No.105
否定できなくて悔し~……!……けどさ、私の彼氏が鋭すぎるってのもあると思うんだよね~?(図星を突かれて詰まった吐息を観念したかのように吐き出しながら、サプライズの類も悉く失敗に終わっている過去を思い返してがっくり項垂れる。けれど、むぅと尖らせた唇による反論は愉快気な音にて響き、首を傾げる彼へも「だってがっつり本命なのに他の人にあげちゃうのも違うじゃん?」なんて笑う辺り、こういった他愛ないやり取りを愛おしんでいるのは明らかだ。何の実にもならないような話でも、彼と交せばそれは明日からを頑張るエネルギーとなる。かけた保険が笑い飛ばされ込めた想いの丈が尊重されたなら思わず顔を覆って「先輩ほんと好き」なんて、ときめきに震えた声を絞り出しただろう。)任せて!すっごい御利益ありそうなの選ぶから!ランク戦でもばんばん活躍できますようにって祈りも込める!(思いつきだったそれは見事採用。いつだって願っている彼の無事を形にして手渡せるとあれば気合いも入るというもので、凛々しい表情と共に力強く拳を握る。次の瞬間にはへらりと笑みを浮かべて「デート楽しみ」と浮かれた胸の内を明かしてしまうのだが。)そっ……そこは制服姿が可愛かったって言って欲しかったなー!?(同じ気持ちを差し出されたならほわりと頬を上気させるも、お世辞にも上出来とは言えなかった振る舞いを思い返せばつい言い返す言葉に力が入った。彼に対してあんなに余所余所しい態度を取ったのは出会って以来初めてかも、と。その自覚があるために。)あ。(間抜けに零れた一音は、彼の言葉がまたも図星であることを示して。)リクエスト……欲しいもの……?(立ち上がりつつ呟いたなら彼の顔をじっと見つめること数十秒。)って言われても、欲しいものなんて澄晴先輩くらいしか思いつかない、し…………って別に変な意味じゃなくてね!?(こうして顔を見ながら話す時間。自分に向けられる笑顔。呼ぶ声。 つまりは“もっと一緒にいたい”という、恋人としての心に根を張る欲が言葉足らずに顔を出した結果。誤解を招きかねない言い回しに気付けば、茹蛸も顔負けなくらい赤くなった顔の前で両手を振り、)忙しいのは知ってるからその、……特別なことはなくても、会えるだけで十分、……っていうかあんまり頑張られたら心臓もたなそう。先輩素で三倍返ししてきそうだし(真っ赤な顔とか細い声で、そんなことを告げようか。)
古澤歩佳 2022/2/23 23:16 No.109
(可愛らしく搾り出された言葉には、「おれも」とこちらはかろく微笑もう。実際のご利益はさておき、彼女が己の為に選んでくれるというだけで己にとっては一番のお守りとなることは当然だから。次なる約束まで得れたのだから一石二鳥というべきか、二鳥以上の幸いを得たと言っても過言ではない筈だ。)制服姿が可愛いのは当たり前じゃん?偶にはいいなって思ったよ、ああいうのも。新鮮で。(今となれば見ることの出来ない彼女の態度だったこともだけれど、辿々しい口調の慣れていなさが微笑ましく。己が先輩という立場にあるからこそ尚更か、これが同学年であったのならばまた別の態度が見られたのかと思うと、それはそれでと思う気持ちがなくもないのだが。それは追々の相談とでもしておこう。)欲しいものでも、おれにして欲しいことでもいいけどね。(それこそ己に出来ることであれば、何でも為すつもりであるとは言外に。欲しいものでも行きたい所でも、要望があるのならば彼女の口から聞きたいと思うのだ。今回に関してはホワイトデーのお返しという名目はあれど、普段から思っていることでもあるのは勿論のこと。)変な意味ってどんな意味?……なんてね、そこまでいじめるつもりはないよ。(にこり。尋ねる音に添えるのは態とらしいまでの笑みだけれど、直ぐに肩を竦めて霧散しよう。既にこちらが突いてやらずとも、目前の顔は充分過ぎるほどに赤く熟れているのだから。)それじゃあ、3月14日の非番をもぎ取れるようにだけ頑張ろうかな。――授業終わったら迎えに来ようか、学校まで。そのままデートして、おれのこと独り占めしてくれる?(今日のように彼女の学校で為されたイベントに乗じる形ではなく、自分達の意思で明確な約束事を交わしておこう。独り占めは何も彼女に限った話ではなく、犬飼もまた彼女を独り占めすることとなるのだ。人目を忍んでの待ち合わせも相応なスパイスとして今までは楽しんでいたけれど、少しくらいは人目に付いたって。いつかは隠すこともなく堂々と肩を並べて歩く様を見せ付けるつもりでいるのだから、じわりじわりと噂が浸透したところで構わぬだろうとは、最終的な判断は彼女に委ねる心算である。そんな未来予想図を共に描きながら、穏やかに過ごす時は彼女とふたりきりだからこその、大切で愛おしい時間だ。今までも、これからも。この場に居ることが出来る間は、素直に呼吸が出来るから。)
犬飼澄晴〆 2022/2/25 00:50 No.114
澄晴先輩、ほんとそういうとこ!でも確かに、スリルがあってちょっと楽しかったよね。犬飼さん、なんて初めて呼んだし!(微笑まれたなら心を射抜かれ、さらりと綴られる「可愛い」には雲の上に飛び乗ったかのような浮遊感を覚え。己が単純さを取り繕うべく唇を引き結んでみようとも、すぐに弛んで隠しきることなど出来やしない。常に余裕たっぷりなその人へ一矢報いることが出来るのは果たしていつになることやら。彼の物言いはまるで『何でもいいよ』と多少の無理でも許してくれるような音をしていて、特段無欲な訳では無いけれどいざ問われれば思いつかない。故に生じた返答までの僅かな間に、先程目の当たりにした彼に想い寄せる存在がいるという事実が脳裏を過ぎったものだから、いつも無意識にでも我慢している分まで、つい欲する言葉がまろびでたわけで。)いっ 意地悪~~!!(それはそれは綺麗な笑顔に対し此方は耳まで真っ赤に染めて。顔周りの髪も巻き込みつつ両手で頬を包み込み「もう十分いじめてるじゃん!先輩のばか!」なんて吠えるのだけど、来月の予定が示されたなら「約束だからねっ」と容易く機嫌を直すだろう。それから、)えっ、(驚いたように丸まった瞳が、彼を見つめ数回瞬くうちに柔く細められていく。放課後のお迎え。制服のまま共に過ごす時間。それは、まるで何処にでもいる学生カップルみたいで、密かに抱いていた小さな憧れの一つ。見透かすみたいに差し伸べられたなら“そのうち”と言った未来の輪郭が確かになったかのように感じて、引きつつあった熱が再び頬を染めていく。)……うん。(もう誰の目も気にする必要は無いけれど、頷く声は彼だけに届くように。少女のまっさらな心を染めた鮮やかな蒼から目を逸らさぬまま、彼以外には誰も知らない恋色の笑みを綻ばせて希う。)澄晴先輩のこと、独り占めさせて。 代わりに私のことも独り占めしていいよっ。(これから先もずっと。来月のホワイトデーも、来年のバレンタインデーも、日々を彩る様々なイベントの一つ一つを、二人なりの色で染めていけたならいい。 そうして瞬く間にやって来た3月14日にはきっとまた、何度も真っ赤になりながらも嬉しそうに笑って、両手じゃ抱えきれないくらいのありがとうと大好きを彼へ捧ぐだろう。それは二人、肩を並べて笑い合うのを奇跡ではなく当たり前の日常と呼び――幸福と名付けるための第一歩。)
古澤歩佳〆 2022/2/26 00:02 No.122
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