Wonderful
Chance

Free

 
ペア 2022/2/13 16:40 No.3
(2月14日にトクベツな意味が付与されたのは今年が初めてのことだった。例年通りであれば父の分と学校の友人たちの分と、それだけでよかったバレンタインの準備が、今年は慌ただしいものとなっていた。手作りするつもりだからアドバイスが欲しいだなんて友人に相談してしまえば、面倒見の良い友人のことだからしっかり応えてはくれるにしても相手を訊ねられてしまうことは避けようのない事態だ。その質問に気軽に答えるには相手はいささか名前が知られすぎている。彼に迷惑をかけないためにも友人には頼れないと早々に結論付けた少女のスマホの検索履歴はバレンタイン一色に塗り固められ、さらには人生の先輩である母とまさか彼氏のための実験台にされているとは知る由もない父の協力を得て、なんとか形になったのは前日のこと。)わ……人いっぱい!(早めに体育館へと乗り込んだつもりだったけれど、恋する乙女たちの戦争は早々に始まっていたらしい。女子生徒の団体の向こう側に何人かの男性が顔を出しているから、彼らがボーダー隊員なのだろう。さて、自分が渡したい相手はどちらにいるのか、なんて探すまでもなく「嵐山隊はあっちだって!」と嬉しそうにはしゃぎながら目の前を通過する女子生徒がいた。それならばついていこうと他の隊員目当ての友人に手を振り、そそくさと嵐山隊の列に並――ぼうとして、その列の長さに驚いて足が止まった。広報も兼ねている隊であることは自身もテレビで見て知っているけれど、その知名度が如実に出ている人波だった。)こ、これは……(諦めようか。こんなに大勢を前にして言葉には出さずとも本命チョコを渡せる勇気は少女にはなかった。止めていた足をそのまま回れ右させて、とぼとぼと教室までの道を戻る。『みつくん、疲れてるのにごめんね。終わったら連絡くれるとうれしいです。会いにいきます』そうメッセージを残していれば、きっと気付いてくれるはずだと信じて。)
坂本莉乃 2022/2/14 12:02 No.17
(伊達に広報担当を名乗ってはいない。イベントごとに駆り出されるのは慣れっこだ。今回はあくまで茶野隊のサポート、という形で、嵐山隊からは一名が出向くことになった。学園の生徒である木虎を除いて、そこまで話が進んだところで真っ先に手を挙げたスナイパーは根付さんに止められた。隊長もあの場に一人で行かせるのはどうかという話になって。普段であるならばこの辺りでそっと助け舟を出すのが時枝充という男であっただろう。けれども、今回は、この学園に限っては。隊のみんなが少し驚いたようにこちらを見ていようとも、自分から立候補をしたのだ。理由はそろっていたし、なにもおかしい提案ではなかった。下心をそっと隠していること以外は。そうやって、時枝充は聖バレンタインデーに、彼女が通う学園にやってきた。)──それじゃあ、オレは近くにいるから。何かあったら声掛けてね。……えーっと、それでは。お待たせしました。(すっかり緊張してしまっている茶野隊の二人を送り出せば、待ち構えていた女生徒たちにあっという間に囲まれる。人気者の隊長やエース、何気に根強い人気があるスナイパーを想えばさほどおかしいことでもない。甘い香りのする贈り物を一つ一つ受け取り、断りを入れてからそれぞれの名前の書いた箱に入れていく。いくらか混ざる自分宛てのものも、思うところがあったとしても、同じように丁寧に受け取っただろう。応援しています。その言葉に返した感謝は、嘘ではないから。──さて、見当たらなかった彼女からのメッセージに気が付いたのは、イベントも人並みもすっかり落ち着いてから。帰還の連絡をと思って開いたスマホに、彼女からのメッセージが灯る。しばし考えた後、てきぱきとあちらこちらに手を回して。──『連絡遅くなってごめん。イベント終わったよ。』すっかり換装を解いた状態で、来客用の駐車場よりメッセージを。『今駐車場にいるところ。どこかで待ち合わせようか。』追加でもう一文。送信ボタンを押したと同時、白い吐息が空へと昇った。)
時枝充 2022/2/14 23:06 No.26
(そわそわと彼からの連絡を待っていたのはさて何分くらいだったろう。どんなふうに渡せばいいのか一人脳内シミュレーションをしているうちに、然程人気のない図書室にて、差し込む夕日と暖かい空調、加えて誰かの本を捲る音が子守歌となったのかすやすやと気持ちよさそうな寝息があたりを包んでいた。ブブブ、震えるスマホが机とぶつかりいやに音が響くまで。)――んぇっ!?(目を白黒させながらも反射的にスマホに伸ばした手で通知を確認すると、身支度も構わず荷物をもって飛び出した。平素であれば廊下は走るべからずと注意されるところも、今日ばかりは教師も体育館へ駆り出されているらしく少女を止めるものは誰もいなかった。駐車場までの道のり、50メートル走のタイムはすこぶる悪い鈍足で一生懸命に駆けていく。)みっ、――みつくん!(特徴的な彼の髪が目に入ったならすぐに声をかけた。)っ……ご、ごめんね、……待たせ……ちゃった……(整わない息を隠すように膝に両手をあてて顔を下に向け、そんな体制で詫びるのも悪いなとは思いながら。少ししてなんとか呼吸も戻れば、今度は乱れた髪やマフラーをあわててなおしていく。かわいくないところを見られてしまったと眉を下げながら、誤魔化すように)チョコ、どれくらいもらったの?(と世間話のように振ってみるけれど、豊作だと聞いてもいやだし少なかったとすればこんなにかっこいいのにと不満になるし、どんな返答も聞きたくない話題を選んでしまった自分にまたショックを受けるから、)や、やっぱり今のなし!(と彼の口を押えようとして。落ち着きのない自身に戸惑うように苦く微笑みながら、)なんだか……わたし、へんに浮かれてるみたい。学校でみつくんに会えるなんてはじめてだからかな?ごめんね。(そこでようやく冷静に状況を把握できたのか、彼に取り巻く白い息を視認すると)さむいよね。駐車場にいるわけにもいかないし、帰りながらお話しする?それとも、教室かどこかに移動しよっか。
坂本莉乃 2022/2/15 23:14 No.49
(本日は防衛任務も入っていない。1度顔を出しに戻るつもりだった本部、というか隊長に今日はそのまま帰宅する旨を伝え。一緒に学院までやってきたボーダースタッフにも同じく。仕事は終わりでこれからは彼女のための時間だ。裏門から出ていく本部の車を見送り。誰もいない駐車場でしばし待機。慌ただしく走ってくる彼女の姿が見えれば手を振って合図を送る。両手を上下させて、ゆっくり、ゆっくり、と伝えるのも忘れずに。)全然。むしろ俺の方が待たせちゃったでしょ。暖かいところで待てた?(ぼんやりしているように見える瞳も、ちゃんと彼女を心配するように伺いみている。続いた質問には一つ目を瞬かせるけど。「ああ、」となんでもない事のように返事をする。)いつ、(もとおなじ。そう紡ごうとしたけれど、柔らかい指先に止められるなら。無理には紡がないだろう。かわりに、という訳では無いけれど。手袋をはめたままの手で彼女の指に触れようと。)おれも結構浮かれてるよ。最近はイベントの準備でなかなか直接会えなかったし。坂本が……いや、莉乃が言うように、学校で会うことなんてあんまりないから。(急いでそうしたからだろうか。彼女の乱れたマフラーが少しだけ寒そうで、自分のマフラーをいじって小さな合図を送ってみる。今年に入って変えた呼び名は本当はもうきちんと呼べるのだけれど。場が和めばいいと余計なお節介で。くちびるに小さな弧を描く。)逢えてよかった。(素直な喜びを今日もしっかりと言葉にして紡ごう。)このままデートに繰り出そうと思ってたんだけど、せっかくだから少しだけ学校を案内してもらおうかな。──学校での話、聞かせてくれる?(そう、せっかくだから手を繋いで。少しだけ非現実を楽しもうか。)
時枝充 2022/2/16 20:44 No.57
ううん、平気だよ。図書室にいたんだけどすっごく暖かかったし……(まさか寝てましたとは言えずに、へへへと笑って誤魔化して。大勢の生徒の相手をして大変だったのは彼の方というのは絶対的な事実なのに、それでも自分を心配してくれるその優しさが胸をくすぐって、幸せで満たされた瞳で「みつくんもお疲れさま」と労りの言葉をかけようか。)!ぅ、あ、……そう、…なんだ?(耳朶を揺らす落ち着いた声が自分の名を紡ぐことになかなか慣れることができていないことは隠していたつもりだったけれど。不意打ちをくらえば目をまあるくさせて、彼が示してくれたマフラーを弄って顔の半分まで埋もれてしまおう。そうすれば、むにむにとなにかと緩みそうになる口元も、うれしはずかし桃色に染まる頬や耳だって隠すことができるはずだ。)わたしも!今日、今日はぜったいあいたかったから……(好きな人と過ごす初めてのバレンタイン。準備は大変だったけれどその分楽しみにしている気持ちも大きく膨らんでいったものだ。触れた手にもやっぱり不慣れが顔を出すからスカートで手汗を拭くようにしてから握って。)こっちだよ!わたしの教室でいいかなっ?(きっと今日しか許されない学校デートを楽しむために一歩前に出て自身の教室の方を指さした。校舎に入ってからはあっちは職員室でやらあそこが購買でやら説明をしながら、自身の生活の一部を彼に紹介していく。同じ学校だったらこんな風に彼と廊下を歩むこともあったのだろう、そう考えると彼と同じ学校の生徒がうらやましくもなりながら。最後にとある教室の扉を開けて、)ここがわたしのクラス(そう彼の方を振り返って、一人先に入っていく。)……ね、みつくん、ここに座ってくれる?(そうしてある座席の元で立ち止まれば、どうかなと彼をうかがった。察しのいい彼のことだから言わずとも気が付いてくれるかもしれないけれど、その席は紛れもなく少女の隣の席だった。)こっちがわたしの席なの。今だけ、クラスメートごっこしたいな。
坂本莉乃 2022/2/18 19:47 No.74
(照れくさそうに笑う彼女の前髪が、ふわりと揺れる様に、そっと目を細くして。ひどく安心した表情を見せただろう。「ありがとう」何でもない感謝の言葉さえ、とっておきのホットミルクのように甘くあたたかく紡ぎあげられる。)うん。……あ、でも平常心に見えるんだったら、そういうことにしといた方がかっこよかったかな。(ぱちぱちとまたたきをして。冗談めかしてちょっとだけ肩をすくめて見せよう。口元を隠してしまう仕草が、何よりも彼女の感情を表しているんだと、わざわざ告げる日は恐らく来ない。恥ずかしがり屋の彼女がそれすら隠してしまうようになったなら、きっとさみしくおもうから。)バレンタインだから?(彼女の言葉を聞きたがって、先を促すように目配せを。てぶくろを外したばかりのてのひらは、暖かいところにいた彼女に冷たく感じないといいけれど。しっかりと繋いだなら、ちょっとだけわるいことをしよう。彼女をそそのかして歩いていく校舎内に、楽し気な足取りを残しながら。職員室の前はちょっと声を潜めて。購買を通り過ぎた後はお昼には何を食べているのかなんて話題でも。「なんだか楽しいね」女子高に通うことは出来ないけれど。もしもを想像して楽しむのは自由ということで。そのゴール、彼女の教室までたどり着いたなら。)うん?……ああ、そういうこと。(ゆっくりと足を踏み入れながら、教室を見渡して。判ったことでも聞きたがるのは、彼女の口からききたいから。)それでは、しょうしょうしつれいします。(丁寧な素振りで頭を下げてから。静かに引いたイスに浅く浅く腰掛ける。隣の彼女はいつもこんな景色を見ているのだと思うと、先ほど以上に教室内が、なんだか鮮やかな色に見えるのだから不思議だ。差し込む夕日が机に窓枠のスタンプを押している。誰かが閉め忘れた窓の隙間でにカーテンが遊ばれていた。暖房の切れた教室で、そっとは痛い気はギリギリ白くない。視線を横に映したなら、)──……ねえ、ちょっと莉乃~。バレンタインのチョコ渡せた?彼氏ちょーたのしみにしてたよー。(すんっとした真顔でふざけて見せる。だってほら、今は女子高のクラスメイトだから。)
時枝充 2022/2/20 17:06 No.82
(言葉にしなくてもこちらの気持ちを汲み取ってくれる彼のことを少女は常々エスパーなのではないかと疑っているけれど、口にしにくいことこそこうして訊いてくるのはわざとなのだろうか。2月14日に彼氏に会いたい理由なんてひとつしかないのに。恋愛経験豊富ならこんなことも素知らぬ顔で流せるのだろうかと思えば己の経験のなさに打ちひしがれる、が、悔しいので「本命チョコをあげる相手はみつくんしかいないでしょっ?」と反論してみせよう。校内ツアーと称した僅かな学校デートの時間もいよいよ大詰め。提案にのって丁寧に隣の座席に腰を落とす彼を見たなら嬉しそうに少女もまた自身の席へ着くだろう。机の端ギリギリまで彼の方へ椅子を寄せて、そうしてちらりと隣を見遣れば彼と目が合う。共学校はこんな感じなのだろうか。なんだか落ち着かずにそわそわと浮ついた瞳を机上に戻したのだけれど、)はぇ?(聞き間違いかと思えた普段よりもほんの少しだけソプラノよりのボイスは、どうやら確かに彼の口から出たものらしい。驚きの表情を隠さずに再度彼を見ればどういう心情なのか想像もつきがたいけれど。その言葉を信じるとするなら、)――ほ、ほんとかなあ……わたし、初めての か、かれ し だし……その、チョコとかも作ったことないし……(彼の小芝居に乗っかる形で自身の心情を吐露する。机の横にかけた鞄の中から丁寧にラッピングされたひとつの箱を取り出して、巻かれたリボンに目を落としながらはあとため息をついた。たくさん受け取っただろうチョコの中で、一番の出来だとは胸を張ることはできない。でも、)でも、でもね。みつくんを好きって気持ちはわたしがぜーったい一番だから!その、味はこれからに期待ってことで大目にみてほしくて……ええっと、その……(身体ごと彼の方に向き合って、意を決したように箱を差し出した。)時枝充くん!だ 大好きです!(ガバリと腰を曲げて、チョコを掲げるような体勢。しかしすぐにはっとした顔つきで上体を起こすと、)でも今のみつくんみつこちゃんだった……これは渡せないや……(どうやら少女の中で小芝居はまだ続いているらしい。しょんぼりとした面持ちで、一度差し出したはずのチョコを己の身に引き寄せた。)
坂本莉乃 2022/2/22 15:33 No.95
(本命のチョコレートを貰いにきた。そんな当たり前の自惚れと、確かな期待をもって。ぱちりと瞬いた先の言葉の正解答を見通すサイドエフェクトなど持っていないから、目の前の彼女だけを想って彼女だけのために言葉をつむごう。)うん、そうだけどそうじゃなくて。(そんな言葉を前置きに使って。指先を手繰るように絡める。)バレンタインじゃなくても、いつでも会いたいよって話。(秘密をそっと打ち上げるように囁くけれど、全然秘密にする気もないから。きっと彼女には、何回だって伝えて見せるだろう。今日も、君に会えてうれしい。特別な日もそうじゃなくても。冗談めかしてお喋りを誘うのも、ゆるしてくれないかなとおもいながら。)──ほんとだよ~。莉乃が一生懸命作ってくれた、っていうのが嬉しいんじゃないの~。彼女がバレンタインに手渡ししてくれるってだけでもうすっごい浮かれちゃうよ~。(膝の上でさみしくなった指先がくるくる遊ぶ。恥ずかしがり屋の彼女の心がぴょこんと頭を覗かせたら、その頭の上の不安を取っ払いたくてふざけた言葉を続けて。視線で追っかける指先が、自分の方へ向くのを待っている。待ってた。もんだから。)あれ、(驚きの表情を隠せなかったのは、今度はこちらの方。そうくるか、って呟きは心の中だけで。姿勢を正して、しれっと微笑んだ唇が、彼女の形をつくっていく。)坂本莉乃さん。 一生懸命なところも、目の前のひとだけじゃなくていろんな人のことを大切に考えられるところも、頑張り屋さんなところも。きみの全部が大好きです。(一つ不意打ちを食らっただけで引くようななまな精神では、A級で生き残ってはいけないもので。彼女と隣り合うためなら、星女のみつこちゃん(仮)も架空のクラスメイト充君も何でも使いこなして見せよう。でも最後は、やっぱり、──彼女がそうしたように、机の端ぎりぎりまで椅子を動かして。両手を差し出す。降参の形ではなく、彼女に掌を見せる形で。)……莉乃の本命チョコレート、おれがもらってもいいかな。(やっぱり最後は、きみの彼氏のみつくんでいたいのだ。どれだけデキる男で合っても、彼女の前ではただの彼氏でただの高校生なもので。)
時枝充 2022/2/23 00:43 No.99
(少女の本命チョコの相手について、彼が当然のように自分自身だと思ってくれていることに気持ちは伝わっているのだと反論のつもりで言ったくせ少し安心しながらも、そうじゃないと否定されると他に何かあるのかと首をかしげた。その結果、続いた言葉、絡められた体温、そのすべてに心臓は大きく鼓動してマフラーに更に顔を埋めることになるとも知らず。)……わたしも、(市民のために毎日忙しくしている彼を誇らしく思いながらも、いつでも、本音を言えば毎日でも会いたいところ。彼にどう思われるのかわからなくて、正直にそんなことは言えないから短く同意するしかできないのだけれど。)ぅ、えぇっ!(箱を膝の上に乗せて肩を落としていたところに突然始まった彼からの告白にぎょっとしたように顔を上げた。今は教室の中、マフラーなんてとっくに外してしまっているから、先ほどとは違い熟れたリンゴのような顔を隠してくれるものはない。恥ずかしさと嬉しさでほんの少し潤む瞳で彼を見つめたなら、)みつくんにしかあげないもん(そう言って彼の手のひらに慎重に箱を乗せよう。)優しいところも、人一倍周りを気遣ってるところも、ボーダーとしてみんなのために頑張ってくれてるところも、時枝充くんの全部が大好きです(彼の言葉をなぞるように、ひとつひとつ好きなところを列挙していく。本当はもっとたくさんあるけれど、重いと思われるのは困るので少なく絞って。大事な気持ちは全部チョコに閉じ込めたつもりだ。嵐山隊を象徴する真っ赤な箱の中には、彼が好きな猫をかたどったショコラチーズケーキが入っている。ホワイトチョコの凸ペンで彼の顔も描いてみたりして。)自分で言うのもなんだけど、愛情だけはたっぷりこめたから……よかったら食べてください(恥ずかしそうにしながら、手持ち無沙汰の両手は膝の上でぎゅっとこぶしを握った。)
坂本莉乃 2022/2/23 23:23 No.110
(忙しいのはもっぱら男の方で。おそらく彼女に我慢をさせているのではとは思っていて。だから、自分の我儘として伝えていきたいと思う。いつだって会いたいこと。今日も会えてうれしいこと。「一緒だね」って、同じ気持ちでいられることが幸せなこと。恥ずかしがりで優しい彼女を、先導したがるように。でも、無理強いはしないように。今日も素直に言葉にしよう。)……うん。(まっかなかおは、彼女が大好きないちごの様だとも思った。ごめんねもありがとうもふわふわにして混ぜ込んだみたいな、甘い相槌を打って。そっと重みの増した手のひらを、指先が丁寧に包んでいく。包装紙の赤色が誇らしく思えてくる。それの色を選んでくれた彼女が、今日ももっと好きになる。彼女がこの街にいることが、どれほどの決意を、そして心強さを生んでいるか。彼女への好意を隠すことのない男だって、全てを伝えるすべはいまだ持ち合わせていないから、)ありがとう、嬉しいよ。(ゆるゆると笑んで、まずは素直な感謝の言葉を。)とても楽しみにしてたから、少しだけ中見てみていい?(そりゃもう待ちきれないも顔を出す。さて、OKが頂けたならちょっとだけ覗き見して、いずれにせよ今日帰った後ラインでは『ねこ(ねこの絵文字)』『こういうの手作りでできるんだ』『すごいね』『おいしい』という感想と共に何枚ものケーキの写真とフォーク入刀、そして綺麗に空っぽになったお菓子の箱がリアルタイムの実況形式で送り付けられるはず。もしも、ここで食べてもいいなら、目の前で実況するのもいい。これでもどうにも浮かれている。)──さて、貰ったチョコレートの分はホワイトデーにお返しするんだけど。 一杯頑張った分のお礼をしたいからもう少しだけ、出来れば今日は家に帰るまで、莉乃の時間を貰ってもいいかな。(名残惜しいけれど人が来る前に退散をと、ちょっとの同級生ごっこは終わってしまう。が、しれっと本日を切り上げる気のない男は、改めて放課後デートへのお誘いを。万が一を想定して用意した黒髪のカツラと伊達メガネの出番はあるか。もしももしもの場合にと、某支部の眼鏡派が作った女装トリガーの出番はあるのか。すべては神ではなく、仏でもなく、大好きな彼女だけが知っている。今日のおれは嵐山隊時枝充の前に、ただのみつくんなので。)
時枝充〆 2022/2/26 00:00 No.121
(彼のチョコを手渡してから数秒にも満たないはずの間で心臓は一生分の鼓動を終えたような感覚に陥る。友人や後輩と『きっと大丈夫』『喜んでくれるはず』そう励ましあいながら手作りを選んだけれど、果たしてそれはTRUEエンドだったのか。)――っ、よ よかったあ……(彼の目元が穏やかに緩み薄い唇が五文字の形を描くまで詰めていた息は、安堵に変わって吐き出された。赤べこのように頷いて見てもらう中身はなかなか思うように顔が描けずに苦戦もしたけれど、猫になった自分を見た彼の反応を見たくもあって。目の前で食されるのは羞恥心が勝ってしまうのでご遠慮いただいたけれど、うれしいという言葉と笑顔を見れただけでも頑張ってよかったと素直に思える。へへへ……とだらしなく緩んだ口からはそんなにやついた笑い声も漏れてしまうだろう。)えっ!い いい いいの!?(本日のビッグイベントを滞りなく終了したせいか、彼との時間はここまでと考えていた。任務はとか訓練はとか、彼の立場を考えると気になることもあったけれどそれを今ここで言葉にするのは野暮なものだろうとのみこんで、ただ嬉しい気持ちに正直なまま飛びついた様子は犬のようだったかもしれない。喜びに思わず立ち上がった際に音を立ててずれた机を元の位置に戻して帰り支度を済ませたなら、最後に一度だけ彼と並んでいた光景を目に焼き付けるかのように教室を振りかえって、それから校舎を後にしよう。もう校内に残っている生徒はまばらだったけれど、念のために裏門から脱出を試みて、それからは女装トリガーの話なんて聞いてしまったら見たいと目を輝かせることだろう。とはいえ女の子の格好でも、変装をしない普段の彼でも、どちらでもよかった。学生服でも女装でも隊服でも、中身は大好きなみつくんに変わりはないので。)
坂本莉乃〆 2022/2/27 23:20 No.125
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