Wonderful
Chance

Free

(後夜祭に顔を出したところでトーナメントに参加していたわけでもないから、此方から声を掛けなければ会話が始まることもなく。見知った顔があれば言葉を交わすくらい、そんな軽い参加態度で包んでもらった料理片手に歩み出したときだった。あまりにも拙すぎる音吐で己の名が紡がれたのは。)お~、なんだシレネじゃん。そうだ、ベスト4じゃんね?おめでと。(呼び止められた足はちゃんと止まり、爪先を彼女へと向ける。彼女が口籠っている時間も男は喋り続けて、そうして遅くなってしまったけれど直接お祝いの言葉を伝えよう。今さらだなんて言わせやしない。)ふ~ん、パルデアには来ないんだ?(社交辞令と捉えられてしまったならそれまでのこと。まるで此れが今生の別れのように彼女が話すものだから、少しくらいいじけたっていいだろう。彼女がこれを区切りとしたなら其れに従うまでのことで、それが願いならば叶えてやりたいとも思うから。)オレもそう思ってるよ。(これはLINEを通じても伝えた言葉。今はもう残された時間は僅かしかなく、ゆっくりと膝を突き合わせて言葉を交わらせることが難しくなってしまったことは確かに悔いとなる。結局は土産を受け取るよりも共に過ごしたいと一人で向かうことを拒んだ男の目論見が外れただけのこと。言葉を尽くさず真意を伝えられぬ愚か者は男の方だ。)シレネの泣き顔見られると思ったのに、残念。(下手くそな笑みを瞼の裏に焼き付けて、彼女の髪を一度だけ撫でやれば後はもう言葉を紡ぐことなく歩みを再開させよう。彼女の真横を通り過ぎたとて、最後まで別れの言葉を紡がずにいたのはちっぽけな意地。――遠く離れた地で彼女を思い出すときはきっと、この下手くそな笑みなんだろうとの予感を胸に燻らせたまま。)
犬飼澄晴〆 2024/2/18 22:06 No.131
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