Wonderful
Chance

Free

 
ペア 2022/2/13 16:28 No.1
(人の犇めく体育館内で、ボーダーの隊服を纏った者たちが並んでいる。チョコレートを各々準備してきた女子生徒たちは、てっきりテレビ出演者など顔の知られている者に集まるものと思っていた――つまり“彼”にはスムーズにチョコレートを渡せるだろうと考えていたが、それは見通しが甘かったようだ。姿も見えないという程ではないにしても、人の壁があり近づけない。彼は派手な顔立ちではないかもしれないが、充分に整っていて格好いいという事実を看過してはならなかったのだろう。如何に公式のイベントで、彼が仕事で来ているのだとしても、恋人が女子に囲まれてチョコレートを受け取っている姿というものは成るほど気分の良いものではない。どこか他人事のようにそう考えながら人垣の手前で足を止めた。踵を揃えて立ち、身体の前で揃えた両手には百貨店の紙袋を下げている。硝子玉のような瞳が人と人の隙間を縫うようにしてじっと彼の姿を見つめた。)…………。(やっぱり、こうして姿を拝見できるだけでも幸せかも知れない。大真面目に思案しながら対応に勤しむ彼を見つめて、見つめて――目が合えば、ふうわりと表情を綻ばせた。順番を待ってチョコレートを渡して、それで終わりでも良いかもしれないけれど。用意した贈り物を直接手渡せる折角の機会なのだから、それは少し勿体ないことのように思えて。体育館の外へ視線を向け、彼へ向かって唇の前で人差し指を立てて見せる。それから踵を返して実際に外へ向かった。体育館から一番近い空き教室に入り、念のため彼に道順をLINEする。きっと来てくれるだろうと暫くは疑いもせずそこで待っている筈だ。)
西条古鈴 2022/2/14 15:34 No.19
えっ あ、オレのこと知って…そうです、香取隊の。あっ ありがとうございます!(普段から目立つこともない単なるB級隊員の自分でもこんな風に囲まれて嵐山隊みたいな扱いを受ければ、ちょっとくらい舞い上がったって仕方のないことで。あからさまに嬉しそうな笑みを浮かべて対応する顔は満更ではないことを示していた。自分を知ってくれている存在が目に見えて集まってくれたことに調子に乗ってホイホイ渡されるチョコを受け取りお礼を述べて。求められればまた握手もしたし写真だって一緒に撮ったりした。そんな風にちゃっかり楽しんでいたバレンタインのイベントに参加した本当の目的は別にあったのだけれど。人垣のあわいを擦り抜けて硝子玉みたいな瞳とレンズ越しに視線がかち合ったなら、ぎくりと肩を震わせた。なんと腑抜けた姿を晒してしまったことか。向けられた笑みに後ろめたさと申し訳なさが一気に込み上げてきた程。彼女が居ながら仕事とはいえ何をしてるんだって内心責め立てて、きゅっと眉根に皺が寄る。そんな男に印された人差し指はふたりだけの秘密を交わす合図となって、流れゆく視線の先を追った。体育館の外へと向かう其れは、もう一度彼女を捉えたと同時に去って行くもんだから。)あ、の…!スミマセン!オレ、これ、ちょっと置いてきます!(多くなった荷物を片付けに行くと伝えて、また戻ってくるという雰囲気を纏いながら自分宛だけではないチョコでいっぱいとなった荷物を抱え体育館の外へ出た。LINEに記された道順を辿り、空き教室へと向かった。)……古鈴。悪い、待たせた。(教室に一人きりの彼女の名を呼びながら足を踏み入れて、当たり前のようにドアを閉めた。彼女の元へと歩み寄るも落ち着きない様子で)星女の教室ってだけで緊張する。……古鈴も制服だし。(緩みそうになる口許を隠すように手の甲を押し当てて、目の前の愛おしい少女に視線を落とせば眼裏に灼きつけるよう眺めていようか。)
若村麓郎 2022/2/14 23:47 No.29
(まるで悪いことをしているところを見つかったような反応をする彼に、微かにとはいえすうっと目を細めてしまうのも仕方のないことだ。彼に怒っているというよりは狭量な自分に嫌気がさしていて、可愛く拗ねることもできない自分にがっかりしている。早く二人きりになって、可愛い自分だけを見せられたらいいのに。――空き教室に辿り着いたなら電気と空調のスイッチを入れて。スカートと淡いベージュのカーディガンに埃がついていないか、リボンが曲がっていないか、髪が乱れていないかを確かめる。彼に分かりやすいようにと開けたままだった扉から彼が顔を出せば、振り向いてその姿を瞳に映じて。やはり愛おしくて、姿を見るだけでもやもやした気分が吹き飛んでいくのを感じた。)麓郎。いいえ、待ってないわ。……来てくれてありがとう。(淡く頬を染めながら自分も彼の元へ歩み寄る。二人きりの時間が欲しいなど所詮わがままに過ぎないとわかっていて、しかも口に出してねだったことですらないのに叶えてくれたことが嬉しくてたまらない。待ち時間からしてすぐに抜け出してきてくれたのだと分かるから猶更だ。落ち着かない様子の彼に呼気にも似た微かな笑声を落としたのは一瞬で、すぐに熱い視線に熱されるようにして頬が茹で上がっていく。「……あんまり見ないでくださる?」視線を俯けながら絞り出すように伝えて、真っ赤になった頬に片手を添えた。恥ずかしくて、照れて困ってしまうから。隠すことなく提げたままの紙袋が揺れる。やがて羞恥を堪えるように視線を上げたなら。)……あなたに渡したいものがあるの。麓郎、……貰ってくださる?
西条古鈴 2022/2/15 03:10 No.35
(いつだって彼女には笑っていて欲しいものだけど上手く立ち回れない己自身が腹立たしい。師事している先輩や嵐山隊みたいに出来るようにと何度も頭の中ではシミュレーションしているというのに、現実ではこの有り様だ。──二人だけの空き教室。彼女に名を呼ばれると胸の奥が熱くなるから不思議だ。先程まであれほどチヤホヤされたのに、それが瑣末なことであると実感するほど。)いや、オレも会いたかったし……(ありがとうと伝えたいのはこちらの方だ。ボーダーの訓練に感けて彼女と過ごす時間を作れずにいることは自覚していて。だからこそ是が非でも参加したかったし会いたかった。まだまだマスタークラスに届かぬ腕前は日々研鑽を積まなければいけないけれど、今日くらいは許してほしい。見つめた先にいる彼女の頬が染め上がれば、それだけで擽ったくて男の頬も微かに色づく。)えっ あ、ごめん。……でも、古鈴のこと見てたいんだけど。(見るなと言われ反射的に顔を背けてしまうけど、秘めたる欲に勝てるわけもなく。結局は視線を元に戻して双眸が彼女を捉え続けるんだ。)実はさ、ちょっと期待してたんだ。オレが行けば古鈴から直接貰えるかなって。……他の奴にも渡したりしてないよな?(何かなんて聞かなくても今日この日に贈られるものなんて決まりきっている。欲した手が先走って彼女へと伸びるほど、待ち望んで期待していた其れ。ここに来ている他の隊員達だけでも魅力的な人物ばかりで尊敬している先輩だっているくらいだから、確かめてしまうくらい自信のなさが現れてしまったけれど。それでも他の奴に譲るつもりは毛頭ないのだと、レンズ越しの真っ直ぐな強い眼差しと伸ばした手が彼女にだけ生じる独占欲を物語っていた。)
若村麓郎 2022/2/15 16:44 No.41
(会いたかった、というその一言だけでこんなに嬉しくなるのはそれを言うのが他ならぬ彼だからだ。ますます赤みを増す頬が胸のときめきを物語り、落ち着きなく視線が彷徨う。平素何かと忙しくて逢瀬に使える時間が限られているのはお互い様で、それでも疑いなく好かれていると信じられるのは彼の真っすぐな視線があるから。彼の瞳にひとり映る時間は心臓が破裂しそうなほどどきどきするけれど、やっぱり幸せだった。「麓郎ったら……」一度離れた視線を戻す彼を咎めるように呟くけれど、声を聞けば満更でもないのが伝わるだろう。紙袋の持ち手を指先に引っかけたまま、一歩二歩と近づいて彼の胸元に手を伸ばす。)……わたくしだって、あなたを見つめていたいのよ。(体育館では離れた所から見つめているだけで幸せと思ったものだけれど、やはり手の届く距離で見つめるほうがずっと幸せなようだ。柔く眦を細めながら、レンズ越しの瞳をじっと見上げる。だがチョコレートの贈り先について尋ねられると、答えに迷うように視線を逃がしながら唇へ指先を添えて。)まず……父に。それから、チョコレート選びを手伝ってくれた友人に。あとは、(言って半歩ほど下がり自分と彼の間に隙間を作ると、紙袋の中からリボンの掛かったピンクの箱を取り出す。某有名ショコラブランドのロゴが箱に記されているそれは、中身はサブレショコラ。)これは香取隊のみなさんで召し上がってね。(今年用意したいわゆる義理チョコのすべてを正直に羅列し終えたなら、その箱は百貨店の紙袋の中に戻した。そして、こちらへとのびる彼の手にその紙袋の持ち手を掛けつつ、両手で彼の指先をぎゅっと握る。握ったまま離さない。)……あのね、麓郎。ひとつ聞いてもいいかしら。………………手作りのほうが、いい?(おずおずと彼を窺い見るけれど、眼差しの強さは真剣そのもの。)
西条古鈴 2022/2/15 22:48 No.46
(ボーダー隊員であるからこそ行動に制限が生まれてしまうけれど、此度の催しは隊員だったからこそ女子校という滅多に足を踏み入ることの出来ぬ場所へ赴けたのだから悪いことばかりではない。それに男の一挙一動で頬を染め上げてくれるいじらしさで確かに愛されているのだと実感できるから、なけなしの自信が息を吹き返す。咎められたって男だけを映し艶めく睫毛に守られ色付いた硝子玉から視線を逸らすなんて、もう出来やしない。この瞬間に二人の間にやわらかく穏やかであたたかい空気が流れたのはきっと気のせいなんかじゃないはず。)古鈴に見られんのは、いろんな感情が入り混じる。嬉しいとか気恥ずかしいとか、……あと色々。(便利な言葉で暈した感情は熱を帯びているものばかりで、流石に学校で言い放つには憚れる。数多に受ける視線は緊張を誘因するから其れこそ男の方もやめてくれって訴えるけれど彼女の眼差しは格別たるもの。もっと高みを目指そうと頑張る勇気を与えてくれるようなものだから、いくらでも浴びていたい。胸元へ伸びた華奢な指先にどきりと心臓が跳ね上がる。些細な仕草ひとつで男の理性は大きく揺さぶられてしまうんだから、彼女には敵わない。それでも誰よりも彼女を守りたいと、この腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動をぐっと堪え対峙したまま、臆病な男の手は中途半端に彷徨った。)めちゃくちゃあげてんじゃねーか。……いや、その辺は想定内っつーか。香取隊にもくれるんだな。(あの場で他の隊員に渡していたら気が狂っていたかもしれないが、こうして所属する隊に貰えるのは嬉しいものだ。示される箱を眺め「ヨーコも華さんも好きそうだ」と女子メンバーを思い浮かべては、「ありがとう」と礼を告げつつ雄太に渡すのは一瞬渋ったまま、紙袋へと戻る箱を見送った。掛けられた持ち手ごと指先を握られたなら、応えるように男の方からも手を添え包み込むようにして)……手作りも、欲しい。でも、古鈴がオレのために用意してくれたもんなら、全部、欲しい。(意図までは分からぬけれど、彼女が男を想って用意してくれたものを受け取りたいのが本心で。準備にかけた時間さえも欲しがってしまうくらいだから、熱も籠る。気の利いた答えを紡ぎ出せはしないけど、触れ合う手から欲しいものが伝わればいい。今こうして繋ぎ止めているものこそ、本当に欲しいものなのだから。)
若村麓郎 2022/2/16 12:10 No.52
いろいろ?(疑問がそのまま唇から滑り落ちたけれど彼が言葉を濁すようならそれ以上の追及はしない。彼がたくさんの感情を向けてくれているという事実こそが大事だから。やるべきことを疎かにしてほしいとは思わないけれど、それ以外の全部が西条古鈴のことで埋まってくれたらいいとは確かに感じている。いま、自分がそうであるように。)……例年は、母が手配したチョコレートを連名で父に渡していたの。今年はあなたにチョコレートを渡したかったから……同級生を誘ってお店をたくさん回ってきて、それで、多くなってしまったのよ。(チョコレートを自分で買いに行くことを両親に勘ぐられないように、友人に誘われたということにして――なんてずるい手段を取って。お詫びも兼ねて登校直後に彼女へ渡して、彼の隊にもと考えた理由は単純明快。お礼を言われると首を横に振る。「いいの。いつもわたくしの麓郎がお世話になっているお礼だもの」かすかに口元だけで微笑を作った。つまるところメンバーの半数を女子が占める香取隊へ向けた牽制だ、とわざわざはっきり口に出すことはしないけれど。女子メンバーに届くのであれば良し。欲しい物など何もない謙虚なこどもですという顔をしておきながら、昔から欲するものといえば決まって身の丈に合わないような大きなものばかりだった。彼の興味関心を全部自分に向けたがるのは正しくその一つで、彼に強制する心算は無いけれど気を引く努力は全力でしたがった。頻繁に彼に触れるのも、どきどきしてほしいから。裏を返せば自分が同じことをされると心臓が早鐘を打つことになる。)……っ 全部、欲しいと思ってくれるのね。だったらわたくしも応えなくてはいけないわ。全部さしあげます。……中、見てみてちょうだい。(頬を真っ赤に染めあげているから隠せやしないのに、なんでもない振りで促した。香取隊宛てのチョコレートのほか、格子状の上品な模様が入った長方形の箱、およびワックスペーパーとリボンでラッピングしたガトーショコラが収まっているはず。)
西条古鈴 2022/2/18 00:05 No.68
い、色々だよ…ッ!(含みを持たせた結果、引っ掛かりを与えてしまいたじろいだ。下心はなるべくひた隠しに、清いお付き合いを続けたいと思うのは彼女が誰よりも大切だからであって、決して意気地がないわけではない。彷徨った掌がゆっくりと落ちて、ふぅっと息を吐き出し落ち着きを取り戻そうと態とらしく眼鏡を直した。)じゃあお父さんにとっても初めて古鈴から渡すチョコなのか。いろんな店を回って来られたのは楽しかったか?(同級生と共に選んだという品々に想いを馳せて。ボーダーの活動で忙しい分、満足にデートだって行けやしないから外へ出掛けることもきっと友人の方が多いんだろうけど「次はオレともどこか行こう」と提案して。遠回しにだけれどデートのお誘いだ。例えばホワイトデーとか、お返しになるようなものを贈ったり連れて行ったり出来れば僥倖。当日は無理でも必ず叶えたいんだと決意した男の双眸はレンズの奥で光を宿す。)オレがお世話してんだけどな?(主に香取葉子を思い浮かべながら彼女の牽制に気付くはずもなく、世話になっているつもりなど毛頭ないと言わんばかりに首を振った。何にせよ牽制チョコは女性陣へと渡ることに間違いないし、彼女たちならきっと気付くんだろうけど鈍い男たちは存ぜぬままなんだろう。そんな未来を迅悠一のサイドエフェクトなら予知したはずだ。)そりゃあ、全部欲しいだろ……、~~~っ、中身の話な。(都合の良いように解釈した結果、飛躍しすぎた妄想を振り払っては指定された箱を手に取って蓋を開けてみれば其処に在るのは所謂ガトーショコラというものだろうか。つまり此れは男のためだけに用意されたものであり、先程の言葉から推察するに「古鈴の手作り?」と結び付けてもいいはずで。感動で揺らぐ視界と心臓の鼓動は高まるばかり。衝動的に抱き締めたくて、身体が勢いを増すけれど手にした箱の中身を思えば一旦冷静に。なんとか平静を保って、理性の糸は守られた。)帰ったら、ゆっくり食べる。ありがとう。(そうして、きちんと仕舞って箱を紙袋の中へと落ち着かせたなら。見つめる先は一点しかない。ゆっくりと彼女の近づいて、手を広げてから告げたのは)抱き締めてもいいか?(とか、確認しなきゃ何もできない男だけれど。今こうして触れたい欲が止めどなく溢れてくるので、許されるならこの腕の中に彼女の全てを閉じ込めてしまいたかった。)
若村麓郎 2022/2/18 17:45 No.73
………………と、友達とどこかへ行くこともほとんどないから、……楽しかったわ……(言葉に迷い視線を彷徨わせて、――少し嘘をまぜた。本当は“ほとんどない”どころではなくて、実に4年半ぶり。彼と出会ってから止まっていた時計が動き出したように、日常が彩を取り戻していくような気がしている。勉強漬けの毎日にも楽しみはあるし、苦だと思ったことはないけれど、それだけの毎日にはできれば戻りたくないものである。遠回しなデートの誘いを受けると頬を赤らめ、嬉しそうに表情を綻ばせて「ええ」と頷いた。制服姿も良いと思ってくれるなら嬉しいけれど、うんとおしゃれをして彼と会うのも嬉しいものだ。)……わたくしのことは貰ってくださらないの?(中身の話だと強調する彼を揶揄うように告げてみようか。紙袋の中身は、箱の方は一般にもそれなりの知名度があるブランドのチョコレート部門が出しているバレンタインコレクションのチョコレート・ジェムズ。こちらだけを最初は贈るつもりでいたけれど、紆余曲折あって手作りのものも用意することにした。悩んだけれど、男の子は彼女の手作りのチョコレートを喜ぶらしいと聞いたから。その喜ぶ顔が見たくて、頑張ってみたのである。手作りかと聞かれて小さく頷く。自分自身は暫くチョコレートは食べなくていいかもしれないと思うくらい何度も試作と味見を重ねて、その結果、目論見通り彼の喜ぶ顔を見ることができたから――単純なもので、また簡単なお菓子くらいなら作ってみようという気になった。)ええ。あなたに贈ったチョコレートは、あなた一人で召し上がってくださると嬉しいわ。誰にも分けたりしないでね。(彼を独り占めしたい、と正直に言えば思っている。それと同じくらい独り占めされたい。西条古鈴が彼に贈るものすべてを独り占めしたいと思って欲しい。そんな欲求も存在していた。抱きしめてもいいと頷くのではなく、抱きしめてと願うのでもなく、返事をするより早く広げられた彼の腕の中に自ら飛び込んで、ぎゅうううっとしがみつくように抱きしめた。)麓郎、好きよ。だいすき。(額を摺り寄せるようにして、言葉だけでなく行動でも彼への愛を伝えたがった。)
西条古鈴 2022/2/20 17:42 No.84
そうか。古鈴が楽しんでるのはオレも嬉しい。(其処に男が居なくても、だ。構ってやれなくとも彼女なりに充実した日々を送れているのなら安心だ。そんな日々を守るのが自分たちの役目であると矜持を持って、この場にも立っているのだから。それでも彼女に彩りを与えるのは自分がいいだなんて烏滸がまし過ぎるだろうか。頷き示す彼女に、そうして男もまた眦を弛ませた。)う、…ぁ、いや……欲しい、けど。(たじろぐ様相は終わりが見えず。揺れる睫毛が動揺を隠しきれていないまま。“西条古鈴”を欲しがるってのはつまりそういう意味と捉えられても仕方のないこと。色素の薄い肌が湧き立つ血潮を隠せずに、全身へと巡らせて熱を放つ。わかっていて揶揄ってるのか無垢なのか、どちらにしても男の心を掻き乱すには充分だった。──有名店のチョコなんてわかるはずもなく、ちょっと高級そうなものくらいの認識だけれど、彼女の手作りとあらば一瞬でそれを凌駕するんだから不思議だ。締まりなく弛む頬を自覚して、ずれ込む眼鏡のフレームを直しながら誤魔化した。)当たり前だろ。誰かと分けるはずねーから。(照れ臭くはあるので、ぶっきらぼうな物言いとなるけれど思いは素直に届けたい。独占したいからこそ、こうして人目のない所へ来たのだから。彼女から向けられた自身への想いは一つ残さず食べきって取り込んでしまうつもりで。「…ぅおっ」と小さな悲鳴を零すも受け止める力はいっとう強く。しがみつかれた幸福に高なる鼓動は抑えきれない。やさしく宝物を閉じ込めるみたいに両腕で華奢な身体を包んだなら)オレも。……古鈴が、好きだ。(胸に収めて後ろ髪を撫でやりながら、紡ぎ出す言葉は穏やかなもの。沢山の目から隠れて彼女と二人、触れたぬくもりに溶けるのはチョコじゃなくきっと男の方。前髪に落としたキスは無意識なもので、身体が勝手に動いたもんだから我に返れば頬は朱より赤い。)
若村麓郎 2022/2/21 23:46 No.92
(慌てふためく彼があんまり愛おしいものだから、くすくすと笑みを零してしまう。年頃の女の子を無垢だと信じ切っているのだとしたら、そのうちぜんぶ食べられてしまうのは彼のほうということになるのかも知れない。そう遠くない未来の話はさておき、チョコレートを受け取った瞬間の彼の様子は来年のためにもしっかりと観察しておきたいところである。ブランドの名前にはどうやらピンときていない様子。手作りの方が好感触。ちょっとどころではなく高級なチョコレートを渡したことは、この際告げない方が良いだろうと計算を働かせて黙っておくことに決めた。その代わりに、「……お口に合うといいのだけど。甘すぎないように作ったの」と製菓の頑張りに一押し触れておく。)絶対よ。(柔らかな声で念を押し、手渡す愛情を彼がすべて受け取ってくれることの喜びを噛みしめる。――飛び込んだ自分を、力強く受け止めてくれることの喜びも。髪を撫でられる心地よさに双眸を細め、幸せな時間を満喫していたが、不意に額をかすめた感触に驚いて顔を上げた。真っ赤になった彼を至近距離から見上げて見つめ、何度もまばたきをすること数秒。背に回していた腕を引き、はやる鼓動を確認するように自分の胸にあてて。)……麓郎!(次の瞬間には、彼の肩の上から腕を回して抱き着きながら、踵を上げて彼の唇を奪っていた。溢れる思いの丈をぶつけるには一瞬のふれあいでは足りないから、長く長く長く。多少の抵抗があろうとも気付かない振りをするだろう。)
西条古鈴 2022/2/23 16:17 No.103
(“女の子”というものに憧れを持っているのは間違いない。純粋無垢であると信じている男の方がその通りかも知れないけれど、まあ仕方ない。頭でっかちなのは思春期男子によくあること。何かを知っていくとすれば、それは彼女と共に経験できれば其れでいい。高級チョコにも気付けないけれど、屹度それだけを渡されていたとしても男は間違いなく喜んだに違いない。頬を綻ばせて愛おしそうに眺める先にあるのは彼女からプレゼントされたものなのだから。さらに加えての手作りチョコとあらば喜びが際限ないのは言うまでもなく。「ありがとう、嬉しい」と男のためを想って作ってくれたことに簡単に心打たれた。──念を押された言葉には頷き示し誓いを立てよう。そうして抱き留めた腕の中で彼女のやわらかさを確かめて。大勢の人たちが集まる体育館から離れた空き教室の一角にてふたりだけの時間を味わうとしよう。甘い雰囲気に浮かされて逆上せた男の頬は大胆なことをした羞恥で強張り朱に染められたまま。けれどそれも直ぐに高揚へと変わる。与えられたチョコよりも甘すぎる口付けに酔いしれて、受け入れるだけでは留まらない欲が彼女の腰に腕を廻させたなら思いっきり引き寄せてしまおう。彼女と過ごすと知らなかった自身の一面が表に出てくるけれど、屹度こんな男でさえも寛大に受け止めてくれるだろうから。彼女に愛されることの幸せを教えられた今、返せるものが限られているとしても溢れる想いを不器用ながら拙くも示していこうと思う。長くも刹那と感じる唇の戯れが終わりを迎えても、込めた熱はまだ冷めやらぬ。)ホワイトデーに、ちゃんとお返しするからさ。……待ってろ。(一ヶ月後の約束も取り付けてしまおう。どんなに未来の予定だって、彼女となら叶えられるはずだから。優しく髪を撫でやりながら幸せを噛み締めて。体育館の喧騒へと戻るまで、今はまだもう少しだけこのまま彼女のことを抱き留めていたい。)
若村麓郎〆 2022/2/25 12:13 No.117
(どんなかたちで愛情を傾けても響くひとだと知っている。既製品のチョコレートに込めた想いを彼が知るのは何年か先になるかもしれないが、いつか気付いてくれたときの反応をこの目で見てみたい。それができるほど長く一緒にいられるとは、疑いも無く信じている。「……来年も作るわね」彼の喜ぶ顔が何より見たいから、手製のチョコレートのほうも手を抜かずにやってみるつもり。来年は事前に彼の味の好みを調べ、凝ったチョコレートに挑戦でもしてみようか。今年はなにしろ作ると決めてからあまり時間もなく、おいしく作る努力こそしたものの良く言えば素朴で悪く言えば地味な仕上がり。改善点は多数思いつく。)――…………、(彼の腕の中にいるとまるで世界から二人だけ隔絶された空間にいるような、特別な心地になる。喧騒は遠く、邪魔する者もいない。熱に浮かされるようにして始まったふれあいは、あたりまえのように受け入れられるから調子づいてしまう。そればかりか彼のほうから強く腰を抱かれ、ふたりがひとつに溶けるような心地よさを覚えるものだからキスは一度で終わらなかった。勢いはあれど彼としか経験がなく未だじょうずとは言い難くて、終わったころには少し息が乱れていた。深呼吸で整える。)ありがとう、麓郎。……あなたがくれるならなんだって嬉しいわ。(心からの言葉を添えて、頭を撫でられる心地よさに再度目を伏せた。触れるところから溶け合って魂ごとひとつになれるような気がしている。彼を喧騒に返すまで、どうかこのまま、ほんの少しでも長く彼を自分の傍に引き留めていたい。)
西条古鈴〆 2022/2/27 10:06 No.124
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